映画のバリアフリー日本語字幕について考える―『侍タイムスリッパー』字幕付き上映アンケートより
バリアフリー日本語字幕という言葉を知っていますか?セリフだけでなく作品の「音情報」を文字で説明した字幕のことです。バリアフリー日本語字幕では、話者名や効果音だけでなく音楽も基本的に字幕で全て表現されます。
バリアフリー日本語字幕は、洋画の字幕のようにスクリーンに字幕が表示される「字幕付き上映」だけでなく、メガネ型端末やスマートフォンアプリなど、様々な方法で提供されています。
UDCast運営・Palabra株式会社が文化庁委託事業「令和6年度障害者等による文化芸術活動推進事業」障害者等による文化芸術活動の推進に向けた課題解決プロジェクトで運営している相談窓口では、当事者からスクリーンでの字幕付き上映を希望する声が上がっています。
そこで、映画『侍タイムスリッパー』のバリアフリー日本語字幕付き上映会を開催しました。上映回ではアンケートを取り、視覚に障害のある人・ない人がそれぞれ字幕についてどのような考えを持っているのかを調査しました。本記事では、その模様を公開いたします。
調査・作品概要
UDCastでは文化庁事業「侍タイムスリッパー<バリアフリー日本語字幕付き上映>」上映会を開催し、鑑賞会にご参加いただいた71名を対象にバリアフリー日本語字幕についてのアンケートを実施いたしました。また、上映後は意見交換会も開催し、皆さんの生の声を聴くことができました。
このアンケートは、難聴者・ろう者が日本語字幕に感じていることや、聴者の日本語字幕についての認識を調査し、よりよい体験を提供するために行われたものです。
鑑賞会当日は普段バリアフリー字幕・音声ガイドを利用している見えない・見えにくい方やきこえない・きこえにくい方だけでなく、一般の方、外国語を母語とされる方など、様々な方々にお集まりいただきました。
また、UDCastでは「侍タイムスリッパー」の音声ガイド・バリアフリー字幕を制作した模様も掲載しています。ぜひご確認ください。
https://udcast.net/feature/samutai_audioguide/
https://udcast.net/feature/samutai_subtitle/
字幕付きでも多くの方に高い評価をいただく
同行鑑賞会にて上映されたのは、あらかじめスクリーンにバリアフリー日本語字幕が焼き付けられているものです。バリアフリー日本語字幕は映画鑑賞の際にどのような影響を与えるのでしょうか?
鑑賞会後の意見交換会では、以下のようなコメントがなされていました。
・時代劇は見たことがありません。今回は現代語や京都弁をしゃべっており、標準語とかなり違うので字幕があることでかなり助かりました。自分の家で映画を見る時は必ず字幕をつけて鑑賞しており、言葉で聞くだけではわからないものを文字で理解することもあったので字幕にすごく助けられています。(外国語話者)
・字幕が出ることですごく昔の言葉を使って喋ってるっていうことがわかって、深く感動することができました。また、話している人が誰なのかっていうのも、ちゃんと書いてくれていることでより作品に集中することができました。字幕で太鼓のシーンも表現されていて、緊張感があるシーンであることが、映像とプラスされて、より伝わってきました。(聴覚障害者)
このように、聴覚障害者や外国語話者にとって字幕は理解の助けになっていることがわかります。では、聴覚障害や視覚障害のない日本語を母語とする人にとってはどうなのでしょうか?
同行鑑賞会では、聴覚障害・視覚障害がある方を除く日本語話者53名を対象に、バリアフリー日本語字幕についてのアンケートを実施いたしました。
「今回、日本語字幕が付いていましたがいかがでしたか」
「機会があれば別の作品も、映画館で日本語字幕付きで日本映画をみたいですか」
という二つの設問について5段階で評価を聞いたところ、日本語字幕についての評価では、評価4と5と付けた人々は全体の75%以上、別の作品も日本語字幕付きで見たいかについては全体の60%以上となりました。
若年層のほうが字幕への評価が高い。ストリーミングやTVに字幕が付いていることに起因か
特に、10~20代については別の作品も日本語字幕付きで見たいという評価に対し、評価4以上を付けたユーザーが90%以上となるなど、多くの人々にとって好感触でした。また、評価2を付けた方々は50~60代に集中しました。


また、アンケートに寄せられたコメントでは、多くの方が普段からTVや動画配信サービスで字幕を利用している旨を記載されていました。
・テレビでもストリーミングでも字幕やテロップが付いているのが当たり前になっているので、まったく違和感なく楽しむことができた。(50~60代)
さらに、音声だけでは内容を把握しづらいため、特定ジャンルの映画は字幕付きで見たいというご意見や、音楽を字幕で表現してほしいというご意見が記載されていました。
・音情報について、耳には入っているもののそれがどういった役割を果たしているのか、は字幕があった方が理解が深まる。フィクションの日本語字幕はリピート鑑賞に用いたい。(1回目は音情報を優先せず、自分の感性だけで受け取りたい。)ドキュメンタリー系は、内容理解のために字幕があったほうがいいと思った。 (10~20代)
・今回のような簡易な会話が多いエンタメ作品では字幕がなくとも十分な鑑賞体験が得られるが、ミステリや難解な言葉が多い作品だと聞き逃した情報などを補完するのに非常に役に立つと考えた。(10代~20代)
・音楽が流れる時に「♪」だけの時が多いけど、今日のような「♪ 激しい太鼓の」リズム」のようなイメージしやすい表記があると、もっと良いと思います。(50~60代)
しかし、動きの激しいシーンでは見づらくなることがあったという指摘や、日本語字幕のあるものを積極的に選ぶことはないといった指摘など、マイナス意見もありました。
・自分自身の感覚としても、見ること+聞くことを鑑賞体験の前提としてしまっていること、それ以外のあり方がまだ十分には普及していないという状況に改めて関心を向けるよいきっかけになりました。ありがとうございました。(10代~20代)
・基本的にストレスなく見れたが、殺陣のようなアクションシーンで集中して文字を読むのが少し難しかったように思う。(30~40代)
・今のところあえて日本語字幕で観ることは選択しないと思いました。ただ日本語字幕があることで観づらくなることはなかったので必要である場合は、ないものと変わらない感覚で観に行くと思います。(30~40代)
海外の方々への鑑賞サポートとしても日本語字幕は一部有効
今回の同行鑑賞会では、日本語以外を母国語とする方々にも参加いただきました。そういった方々のコメントをご紹介します。
・ふり仮名がないので全てが読めないことがあった。作品の特色で仕方ないが、昔の日本語は、日本語が第一言語でないとわからなく、簡単な日本語に変換してもらえると外国人にとっては良いのではないでしょうか (日本語レベル:日常会話レベル)
•My Japanese is still just a little. So it only helped a little. (日本語レベル:簡単な会話ができる)
•理解への助けにはなったが、セリフをそのまま字幕にするのではなく、やさしい日本語などにしてもらえるとよりよかった (日本語レベル:簡単な会話ができる)
このように、日本語字幕が理解の補助となっている反面、そもそもの日本語が難しかったりふりがなが無かったりと、日本語を母語とする人々とは異なる視点での課題が浮き彫りとなりました。
映画の常識が日本語字幕を広める障害になっている可能性
今回の調査結果をもとに、映画のバリアフリー化に長らく携わってきた特定非営利活動法人 バリアフリー映画研究会に現状や課題点などについて考察いただきました。以下のようなコメントをいただいています。
バリアフリー映画研究会コメント
特に高齢層では、聞き取りの代替機能としての字幕の評価がある一方で、若い層からの字幕の表示位置や音楽の示し方にたいする具体的な改善点等が挙げられており、映像における字幕視聴の普遍化が促進されていることがうかがえる。
テレビ番組やインターネットの動画配信等においては、オープン型の日本語字幕が幅広く普及しており、さまざまなニーズを踏まえて、世代を超えた汎用的な字幕利用が広がっている。一方、映画においては現状オープン型の日本語字幕は聴覚障害者に対する提供が主で、一般向けにはほとんど上映されていない。前述の実態を踏まえると、映画においてもオープン型の日本語字幕への潜在的なニーズがあることがわかる。特に、映画の主要な購買層である高齢者が、聞こえに不安があることで、映画から遠のいている可能性は高い。そうした購買層をつなぎとめる意味でも、またオープン型字幕に慣れ親しんでいる若い層の映画需要を喚起するためにも、日本語字幕による上映は今後非常に重要であると考える。
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このように、映画以外での日本語字幕の普遍化や、映画での日本語字幕の潜在的なニーズを示す結果となりました。また、次のようなコメントもいただきました。
バリアフリー映画研究会コメント
聴覚障害者以外にもバリアフリー日本語字幕についてのニーズが確かにあることがわかった。そこで、字幕がないのが一般的という映画の常識が、バリアフリー日本語字幕を広めるうえで大きな障害になっていることがわかる。きこえに不安のある高齢者層や日本語の聞き取りに不安のある外国語話者などの映画需要を喚起する意味でも、バリアフリー日本語字幕上映が広く開かれる意義は大いにあると考える。
日本語字幕における音楽表現や、実際の音情報より日本語字幕が先に表示されてしまうといった聴者の指摘を踏まえると、日本語字幕表現に関しては今後も研究・検討が必要である。
映画による日本語字幕をよりオープンにするだけではなく、聴者もろう者・難聴者もともに楽しめる日本語字幕表現について今後も研究を続けることが必要だと指摘いただきました。
UDCastでは、今後も日本語字幕付き上映が普及するよう、さまざまな調査・情報発信に努めて参ります。Instagram・Xでも情報を発信しますので、ぜひフォローお願いいたします!
文化庁委託事業・相談窓口について
当同行鑑賞会は、文化庁委託事業「令和6年度障害者等による文化芸術活動推進事業」障害者等による文化芸術活動の推進に向けた課題解決プロジェクトの一環として開催されています。
また、文化庁委託事業では、鑑賞サポート相談窓口を設置し、皆さまからのお問い合わせを受け付けています。
映画や演劇作品が観たいけど字幕がない、どこに問い合わせたらいいか分からない等、お困りのことがございましたらお気軽に相談窓口へお問い合わせください。
お問い合わせはLINE、メール、電話、FAX で承っています。
https://udcast.net/feature/accessibility-support-center25/
文化庁委託事業
文化庁委託事業「令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
障害者等による文化芸術活動の推進に向けた課題解決プロジェクト
主催:文化庁、Palabra株式会社
制作:Palabra株式会社
