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見えないし聞こえないけど、人生に確実に存在しているもの――『旅と日々』三宅唱監督×字幕・音声ガイド制作 対談

11月7日(金)に三宅唱監督の映画『旅と日々』が公開されました。『旅と日々』は監督が脚本も手がけ、つげ義春の短編漫画「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を原作に撮りあげた映画です。 UDCastが運営するPalabra株式会社では、『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』に続き、三宅監督作品の字幕・音声ガイド制作を行っています。今回は、三宅唱監督と音声ガイド制作・松田高加子と字幕監修・小嶋あずみの対談が実現いたしました! ※当記事は映画『旅と日々』の内容への言及を含みます。ご注意ください。 インタビューの様子。右下・三宅監督、左上・小嶋、左下・松田、右上・樋田。 バリアフリー音声ガイドとは?映画の映像部分の情報を言葉で説明して、ナレーション収録したもの。テロップや情景・人物の動きなど、目から入る情報を説明します。主に目がみえない、みえにくい方に活用されています。 バリアフリー字幕とは?作品の「音」の情報を文字で説明した字幕。セリフだけではなく、話者名・効果音・音楽なども表現。主に耳がきこえない、きこえにくい方に活用されています。 三宅監督と音声ガイド制作・松田の過去対談はこちら!監督インタビュー【音声ガイド制作者の視点から】映画『ケイコ 目を澄ませて』 三宅唱監督へhttps://note.com/udcast0401/n/n75cea5c8b23a監督インタビュー【音声ガイド制作者の視点から】映画『夜明けのすべて』 三宅唱監督へhttps://note.com/udcast0401/n/n567e1add6c1d ―みなさま本日はよろしくお願いいたします! 三宅唱監督(以下、監督):『旅と日々』監督の三宅唱です。よろしくお願いします! Palabra株式会社・松田(以下、松田):Palabra株式会社で音声ガイド制作を行っています。松田です。よろしくお願いします! Palabra株式会社・小嶋(以下、小嶋):同じくPalabra株式会社で字幕制作を行っています、小嶋です。よろしくお願いします! 監督・制作・モニターで一緒に作り上げる字幕・音声ガイド ―Palabra株式会社では、『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』に引き続き、『旅と日々』の字幕・音声ガイド制作を担当しました。松田・小嶋とも3作品いっしょでしたが、3回目の制作はいかがでしたか? 監督:初めてガイドを作った時から面白い作業で、制作の時間はとても楽しいです。字幕・音声ガイド制作までが監督の仕事だと思っています。 ―Palabraの字幕・音声ガイドは、「モニター会」で映画製作者と当事者モニター、字幕・音声ガイド制作者の3者による「モニター検討会」でブラッシュアップすることが特徴です。モニター会についてはどうでしたか? 小嶋:三宅監督作品のモニター会では、どの作品でも皆楽しそうだったのがとても印象的でした。監督が自分の考えを積極的に発言なさっているので、モニターさんが意見をより言いやすい雰囲気になりました。その結果、意見交換が活発になっているのが三宅監督のモニター会の特徴だと思います。 松田:監督がモニター会に自然に参加してくださっているので、すごくやりやすいなと感じました。三宅監督の作品は情報量が多くて、音声ガイドの原稿を書ききったつもりでも後から見えていなかった要素が浮かび上がることがあります。ですので、モニター会で音声ガイドを見てもらいながら、監督と一緒に作り上げるつもりで臨んでいます。 監督:モニター会での字幕・音声ガイド制作は、映画の撮影現場とまったく同じで、延長線上にあります。事前に一人で練り上げたつもりでいても、現場では予想外のことが起こる。一人の時と人が集まる時では、出来ることが全く違ってきます。そういうところが、集団でものづくりをする面白さだと思います。 小嶋:字幕のモニター会では一番初めに映画を通して観るのですが、その時に「この音も表現したほうがいいかも」と気付くこともあります。パソコン上で字幕を制作している時は、視野が狭くなってしまっているのを感じます。 監督:僕も同じで、たとえば編集中に、たまに脚本を知らない初見の人に来てもらって、一緒に観ながら、はじめて気付けることが多々ありますね。どきどきする恐ろしい時間ですが(笑)、そんな時間があらゆる側面で作品を良くすることにつながると思います。 非言語的なニュアンスをどう感じていただくか ――序盤の『夏篇』では、髙田万作さん演じる夏男と、河合優実さん演じる渚の二人が登場します。佇まいひとつとっても雰囲気のあるお二人ですが、夏篇の音声ガイドはどのようにつくられたのでしょうか。 監督:彼らからでる色気や哀愁は非言語的なものです。音声ガイドで言葉にしてしまうことによって、一つのイメージに固定されるのを恐れていたのを覚えています。 松田:作中には、渚がビキニを着て夏男と海にいるシーンがあります。男の子と海にいてビキニを着るという状況だけで十分ドキドキすると思い、このシーンでのガイドは表現を控えめにしています。また、ビキニの柄は花柄なのですが、大人のお姉さんっぽい印象になるよう表現に気を配りました。 [実際の音声ガイド原稿]ビキニ姿の渚。白地にブルーのフラワープリント。海へ向かう渚。夏男もシャツを脱ぐ。 監督:しっかり想像力に働きかけられるかどうか、それを邪魔しないかどうかが気になりますよね。直感的な味わいのあるとても重要な場面で、松田さんが一貫してこだわってくれたのは嬉しかったです。 松田:佇まいで言うと、渚の脚線美が印象的だ、というサブ担当の意見を、ガイドのどこに取り入れるべきか悩みました。漂う色気は欲しいけど、生々しくならないようにしたい。監督に、「冒頭からはどうですか?」とご指摘いただき、そこならピッタリはまると思いました(笑) [序盤の音声ガイド原稿]目を覚ます渚。大きく息をつく。ミニスカートを履いた足を曲げ、太ももが見える。 監督:映画の冒頭は、ナラティブが始まる前なので、いろいろな情報が入ってくるタイミングだと思います。音声ガイドでどれをどういう順番で伝えるのかは結構難しいですよね。今回は、冒頭から河合さんのただならぬ雰囲気があるので、ここだと思いました。 視覚でも、聴覚でも、言語でもない形で世界を知覚する ――『夏篇』の冒頭では、二人のほかにイタリア語で喋るリサが登場します。通常の日本語上映でもリサのセリフに翻訳字幕はありませんが、字幕・音声ガイドはどのように制作されましたか? 小嶋:イタリア語が理解できなくとも、聴者はところどころ言葉を拾ったり声のトーンを聞いたりすることで会話を想像できます。バリアフリー字幕でも、グラッツェ、チャオなどの聞き取れそうなイタリア語を入れました。あとはリサの身振りや表情に託しました。 松田:音声ガイドでは、リサのイタリア語のトーンに助けられました。リサがカメラを見せる動きを説明するだけで、シーンの内容がわかるようになっています。お話を聞いて、字幕では別の工夫が必要なんだ、と改めて発見しました。 監督:リサのイタリア語はインターナショナル版でも翻訳字幕を付けていません。なので、イタリア語がわかる人だけが会話の意味を理解できるという形になっています。これは映画のテーマに関わる部分なので、字幕を付けないようにすると判断しました。 松田:『ケイコ 目を澄ませて』でも、手話でおしゃべりをしている中で字幕が出ていないシーンがありましたね。 小嶋:あのシーンの字幕制作では、モニターさんから「手話の内容が面白いんだけど、本当に字幕にしなくて大丈夫ですか?」と聞かれたことをよく覚えています(笑)でも、手話がわからなくてもなんとなく想像できるような、印象深いシーンだったと思います。 監督:僕にとって、最初に字幕・音声ガイド制作に携わった映画が『ケイコ 目を澄ませて』だったのは、とても大きいことだったかもしれません。映画は、まずは見えるものや聞こえるものから出発せざるを得ませんが、ただ重要なのは、最終的に、見えないし聞こえもしないもの、言葉にもできないもの、でも僕たちの人生に確実に存在しているものにたどり着けると、すごく面白いんだなと、このガイド制作を通して改めて実感しています。例えば、「真心」って存在すると思うんですけど、そう言葉にすると陳腐なんですが、見えないし聞こえないものですよね。 ――本作では全編通して韓国語でモノローグが語られており、日本語・韓国語・イタリア語と様々な言語が登場します。住む国や使う言語によって、映画の中での”知らない言語”も変化しますね。 監督:この映画が劇場で上映される際は、日本では韓国語に翻訳字幕があてられますが、韓国では日本語に翻訳字幕があてられ、国によって視聴環境が逆転します。みえる・きこえるに関係なく、私たちの感覚が言語に左右されていて縛られている、ということに気づきます。映画を見ることが「異邦人」になるという経験になる、それが旅の映画だと思います。自分もまた「異邦人」であると知ることが、面白いことなんだと思います。 物語を通して人物の印象がドライブしていく表現を ―後半の『冬編』では、シム・ウンギョンさん演じる李と、堤真一さん演じるべん造が登場します。音声ガイド・字幕ともにべん造についての表現は非常に凝っていて面白いです(笑) 松田:第一印象については、私が見た時に感じたものと近いところを言葉で創り出せたらいいなと思いながら書きました。最初の”出で立ち”を見たときに「日本昔話だ!」と思い、このように表現しました。 [実際の音声ガイド原稿]板の間。囲炉裏端にべん造と座る李。室内を見回す。べん造は、昔話の登場人物のような重ね着姿。湯呑の酒を飲む。 小嶋:字幕としては、最初から方言だったので、見た目と方言で聴者と同じ印象を持ってもらいやすいと思います。その後のいびきや鯉の音などの音情報を追加することで、変化を伝えられたらと思いました。 [実際の字幕原稿](べん造) んー?昔がらだの(李) 昔 というのは…(べん造) 分がんねぇの 監督:べん造については、はじめから人物の全てがわかるわけではなく、だんだんとわかっていく、そういう変化の流れを、堤さんやスタッフと一緒に作っていきました。ですので、字幕・音声ガイドを使っても同じように味わえたら良いなと思いました。 ――べん造で特に面白いなと思ったのは、途中でいびきをかくシーンです。字幕では絶妙な文字表現で間が表現されています。 監督:べん造のいびきのシーンで試行錯誤があったのは面白いと思いました。ここでスベると意味不明なシーンになってしまう、きわめてリスキーな場面なので(笑) 小嶋:そうなんです。〔いびき〕と出しているだけだと字幕は全てが同じトーンで出てしまうため、音で聞くより機械的に見えてしまうことがあります。「いびきが大きいこと、途中で無呼吸になること、再び大きないびきをかくこと」を丁寧に出しました。 [実際のバリアフリー日本語字幕]〔べん造の大きないびき〕〔いびきが止まる〕すぅっ…〔大きないびきが続く〕 監督:いびきを「すうっ….」と表現する字幕を見て、その手があったか!となりました。(笑) 堤さんもあれこれトライしてくれた部分なので、俳優と同じような過程で、字幕制作においても試行錯誤があったのがとても面白かったです。 監督:『旅と日々』はつげ義春さんのマンガが原作ですが、マンガというものは、オノマトペや擬音などを使った音声的な表現が豊かなジャンルですよね。これまでいろんな発明がある。そういったことにも改めて気付かされるような字幕でしたね。 松田:べん造の描写にはユーモアが多くありますよね(笑) 先ほど話した「日本昔話」の箇所では、少し遊びすぎかな……?と判断を迷っていましたが、OKをいただきました。木桶の中を見たべん造に対しても、監督から「凍り付くべん造」なんてどう?とご提案いただいたので、遊びを入れています(笑) [実際の音声ガイド原稿]凍り付くべん造。李が立って、のぞく。氷漬けになった金色の鯉。 監督:気に入っています。(笑) 第一印象からどんどんドライブしていって、最初には予想もつかなかった愛着がいつの間にか湧いてしまうというのは、映画の面白さだと思いますし、俳優のものすごい力です。 自己投影でも共感でもない愛着から、ユーモアが生まれる ――興味深い話をたくさんありがとうございました!字幕・音声ガイド制作は、作品が完成してから行われる工程です。この期間を経て、改めて『旅と日々』という映画について、どう考えていますか? 監督:映画を作りはじめるときは、あれもやりたい、これもやりたいといろいろな事を考えています。しかし、字幕・音声ガイド制作をしている時に改めて、この映画の特に後半の生命線はユーモアであるということに改めて気付きました。 自分からは遠い存在に、物語を追っていくことで、共感や自己同一化とは違う形で、愛着のようなものを持つ。その結果として、その人の挙動につい微笑む。そんなことが起きるかどうか、ガイド制作においても、鍵でした。ニヤっとできるかどうか、それがすごくわかりやすいチェックポイントになりましたね。 ――皆さん、ありがとうございました!最後に、映画『旅と日々』を観る方にメッセージをお願いします! 小嶋:私たちは普段から、作品の感想が第一に出てくるような字幕・音声ガイドづくりを心がけています。ぜひ、鑑賞後は作品の感想で盛り上がってくださいね。個人的には、シム・ウンギョンさんが演じる李のチャーミングさに惹かれています。私ももちろん劇場で鑑賞しますので、ぜひ一緒に楽しみましょう! 松田:何曜日なのか、いつの時代なのか、どこの国なのか、そんなことがどうでもよくなるひと時を味わえる映画です。ぜひ、映画館でご覧ください! 監督:字幕・音声ガイドと同じく、誰が監督したかなんかは忘れてもらいたいです。ユニークな登場人物たちの物語を ぜひ映画館で楽しんでください。 ――みなさん、ありがとうございました! 上映案内 『旅と日々』11月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー© 2025『旅と日々』製作委員会配給:ビターズ・エンドhttps://www.bitters.co.jp/tabitohibi/ 映画『旅と日々』は、11月7日(金)より全国の映画館で上映されています。日本語字幕付き上映も一部劇場で予定されています。詳しくは劇場情報ページをご覧ください。https://theaters.jp/27694 公開日より、アプリ「UDCast MOVIE」を劇場でお使いいただくことで字幕・音声ガイドをお楽しみいただけます。ぜひご利用ください。 また、一部スマホ利用OK館・タブレット貸し出し館では、お手持ちのスマートフォンや劇場貸し出しタブレットを用いて字幕をお楽しみいただくことも可能です。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。https://udcast.net/feature/udcast-movie_theaterlist/ (文・編集 樋田昌之)

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「合理的配慮」って何だろう? みんなと考えるコラム記事

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見えないし聞こえないけど、人生に確実に存在しているもの――『旅と日々』三宅唱監督×字幕・音声ガイド制作 対談

11月7日(金)に三宅唱監督の映画『旅と日々』が公開されました。『旅と日々』は監督が脚本も手がけ、つげ義春の短編漫画「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を原作に撮りあげた映画です。 UDCastが運営するPalabra株式会社では、『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』に続き、三宅監督作品の字幕・音声ガイド制作を行っています。今回は、三宅唱監督と音声ガイド制作・松田高加子と字幕監修・小嶋あずみの対談が実現いたしました! ※当記事は映画『旅と日々』の内容への言及を含みます。ご注意ください。 インタビューの様子。右下・三宅監督、左上・小嶋、左下・松田、右上・樋田。 バリアフリー音声ガイドとは?映画の映像部分の情報を言葉で説明して、ナレーション収録したもの。テロップや情景・人物の動きなど、目から入る情報を説明します。主に目がみえない、みえにくい方に活用されています。 バリアフリー字幕とは?作品の「音」の情報を文字で説明した字幕。セリフだけではなく、話者名・効果音・音楽なども表現。主に耳がきこえない、きこえにくい方に活用されています。 三宅監督と音声ガイド制作・松田の過去対談はこちら!監督インタビュー【音声ガイド制作者の視点から】映画『ケイコ 目を澄ませて』 三宅唱監督へhttps://note.com/udcast0401/n/n75cea5c8b23a監督インタビュー【音声ガイド制作者の視点から】映画『夜明けのすべて』 三宅唱監督へhttps://note.com/udcast0401/n/n567e1add6c1d ―みなさま本日はよろしくお願いいたします! 三宅唱監督(以下、監督):『旅と日々』監督の三宅唱です。よろしくお願いします! Palabra株式会社・松田(以下、松田):Palabra株式会社で音声ガイド制作を行っています。松田です。よろしくお願いします! Palabra株式会社・小嶋(以下、小嶋):同じくPalabra株式会社で字幕制作を行っています、小嶋です。よろしくお願いします! 監督・制作・モニターで一緒に作り上げる字幕・音声ガイド ―Palabra株式会社では、『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』に引き続き、『旅と日々』の字幕・音声ガイド制作を担当しました。松田・小嶋とも3作品いっしょでしたが、3回目の制作はいかがでしたか? 監督:初めてガイドを作った時から面白い作業で、制作の時間はとても楽しいです。字幕・音声ガイド制作までが監督の仕事だと思っています。 ―Palabraの字幕・音声ガイドは、「モニター会」で映画製作者と当事者モニター、字幕・音声ガイド制作者の3者による「モニター検討会」でブラッシュアップすることが特徴です。モニター会についてはどうでしたか? 小嶋:三宅監督作品のモニター会では、どの作品でも皆楽しそうだったのがとても印象的でした。監督が自分の考えを積極的に発言なさっているので、モニターさんが意見をより言いやすい雰囲気になりました。その結果、意見交換が活発になっているのが三宅監督のモニター会の特徴だと思います。 松田:監督がモニター会に自然に参加してくださっているので、すごくやりやすいなと感じました。三宅監督の作品は情報量が多くて、音声ガイドの原稿を書ききったつもりでも後から見えていなかった要素が浮かび上がることがあります。ですので、モニター会で音声ガイドを見てもらいながら、監督と一緒に作り上げるつもりで臨んでいます。 監督:モニター会での字幕・音声ガイド制作は、映画の撮影現場とまったく同じで、延長線上にあります。事前に一人で練り上げたつもりでいても、現場では予想外のことが起こる。一人の時と人が集まる時では、出来ることが全く違ってきます。そういうところが、集団でものづくりをする面白さだと思います。 小嶋:字幕のモニター会では一番初めに映画を通して観るのですが、その時に「この音も表現したほうがいいかも」と気付くこともあります。パソコン上で字幕を制作している時は、視野が狭くなってしまっているのを感じます。 監督:僕も同じで、たとえば編集中に、たまに脚本を知らない初見の人に来てもらって、一緒に観ながら、はじめて気付けることが多々ありますね。どきどきする恐ろしい時間ですが(笑)、そんな時間があらゆる側面で作品を良くすることにつながると思います。 非言語的なニュアンスをどう感じていただくか ――序盤の『夏篇』では、髙田万作さん演じる夏男と、河合優実さん演じる渚の二人が登場します。佇まいひとつとっても雰囲気のあるお二人ですが、夏篇の音声ガイドはどのようにつくられたのでしょうか。 監督:彼らからでる色気や哀愁は非言語的なものです。音声ガイドで言葉にしてしまうことによって、一つのイメージに固定されるのを恐れていたのを覚えています。 松田:作中には、渚がビキニを着て夏男と海にいるシーンがあります。男の子と海にいてビキニを着るという状況だけで十分ドキドキすると思い、このシーンでのガイドは表現を控えめにしています。また、ビキニの柄は花柄なのですが、大人のお姉さんっぽい印象になるよう表現に気を配りました。 [実際の音声ガイド原稿]ビキニ姿の渚。白地にブルーのフラワープリント。海へ向かう渚。夏男もシャツを脱ぐ。 監督:しっかり想像力に働きかけられるかどうか、それを邪魔しないかどうかが気になりますよね。直感的な味わいのあるとても重要な場面で、松田さんが一貫してこだわってくれたのは嬉しかったです。 松田:佇まいで言うと、渚の脚線美が印象的だ、というサブ担当の意見を、ガイドのどこに取り入れるべきか悩みました。漂う色気は欲しいけど、生々しくならないようにしたい。監督に、「冒頭からはどうですか?」とご指摘いただき、そこならピッタリはまると思いました(笑) [序盤の音声ガイド原稿]目を覚ます渚。大きく息をつく。ミニスカートを履いた足を曲げ、太ももが見える。 監督:映画の冒頭は、ナラティブが始まる前なので、いろいろな情報が入ってくるタイミングだと思います。音声ガイドでどれをどういう順番で伝えるのかは結構難しいですよね。今回は、冒頭から河合さんのただならぬ雰囲気があるので、ここだと思いました。 視覚でも、聴覚でも、言語でもない形で世界を知覚する ――『夏篇』の冒頭では、二人のほかにイタリア語で喋るリサが登場します。通常の日本語上映でもリサのセリフに翻訳字幕はありませんが、字幕・音声ガイドはどのように制作されましたか? 小嶋:イタリア語が理解できなくとも、聴者はところどころ言葉を拾ったり声のトーンを聞いたりすることで会話を想像できます。バリアフリー字幕でも、グラッツェ、チャオなどの聞き取れそうなイタリア語を入れました。あとはリサの身振りや表情に託しました。 松田:音声ガイドでは、リサのイタリア語のトーンに助けられました。リサがカメラを見せる動きを説明するだけで、シーンの内容がわかるようになっています。お話を聞いて、字幕では別の工夫が必要なんだ、と改めて発見しました。 監督:リサのイタリア語はインターナショナル版でも翻訳字幕を付けていません。なので、イタリア語がわかる人だけが会話の意味を理解できるという形になっています。これは映画のテーマに関わる部分なので、字幕を付けないようにすると判断しました。 松田:『ケイコ 目を澄ませて』でも、手話でおしゃべりをしている中で字幕が出ていないシーンがありましたね。 小嶋:あのシーンの字幕制作では、モニターさんから「手話の内容が面白いんだけど、本当に字幕にしなくて大丈夫ですか?」と聞かれたことをよく覚えています(笑)でも、手話がわからなくてもなんとなく想像できるような、印象深いシーンだったと思います。 監督:僕にとって、最初に字幕・音声ガイド制作に携わった映画が『ケイコ 目を澄ませて』だったのは、とても大きいことだったかもしれません。映画は、まずは見えるものや聞こえるものから出発せざるを得ませんが、ただ重要なのは、最終的に、見えないし聞こえもしないもの、言葉にもできないもの、でも僕たちの人生に確実に存在しているものにたどり着けると、すごく面白いんだなと、このガイド制作を通して改めて実感しています。例えば、「真心」って存在すると思うんですけど、そう言葉にすると陳腐なんですが、見えないし聞こえないものですよね。 ――本作では全編通して韓国語でモノローグが語られており、日本語・韓国語・イタリア語と様々な言語が登場します。住む国や使う言語によって、映画の中での”知らない言語”も変化しますね。 監督:この映画が劇場で上映される際は、日本では韓国語に翻訳字幕があてられますが、韓国では日本語に翻訳字幕があてられ、国によって視聴環境が逆転します。みえる・きこえるに関係なく、私たちの感覚が言語に左右されていて縛られている、ということに気づきます。映画を見ることが「異邦人」になるという経験になる、それが旅の映画だと思います。自分もまた「異邦人」であると知ることが、面白いことなんだと思います。 物語を通して人物の印象がドライブしていく表現を ―後半の『冬編』では、シム・ウンギョンさん演じる李と、堤真一さん演じるべん造が登場します。音声ガイド・字幕ともにべん造についての表現は非常に凝っていて面白いです(笑) 松田:第一印象については、私が見た時に感じたものと近いところを言葉で創り出せたらいいなと思いながら書きました。最初の”出で立ち”を見たときに「日本昔話だ!」と思い、このように表現しました。 [実際の音声ガイド原稿]板の間。囲炉裏端にべん造と座る李。室内を見回す。べん造は、昔話の登場人物のような重ね着姿。湯呑の酒を飲む。 小嶋:字幕としては、最初から方言だったので、見た目と方言で聴者と同じ印象を持ってもらいやすいと思います。その後のいびきや鯉の音などの音情報を追加することで、変化を伝えられたらと思いました。 [実際の字幕原稿](べん造) んー?昔がらだの(李) 昔 というのは…(べん造) 分がんねぇの 監督:べん造については、はじめから人物の全てがわかるわけではなく、だんだんとわかっていく、そういう変化の流れを、堤さんやスタッフと一緒に作っていきました。ですので、字幕・音声ガイドを使っても同じように味わえたら良いなと思いました。 ――べん造で特に面白いなと思ったのは、途中でいびきをかくシーンです。字幕では絶妙な文字表現で間が表現されています。 監督:べん造のいびきのシーンで試行錯誤があったのは面白いと思いました。ここでスベると意味不明なシーンになってしまう、きわめてリスキーな場面なので(笑) 小嶋:そうなんです。〔いびき〕と出しているだけだと字幕は全てが同じトーンで出てしまうため、音で聞くより機械的に見えてしまうことがあります。「いびきが大きいこと、途中で無呼吸になること、再び大きないびきをかくこと」を丁寧に出しました。 [実際のバリアフリー日本語字幕]〔べん造の大きないびき〕〔いびきが止まる〕すぅっ…〔大きないびきが続く〕 監督:いびきを「すうっ….」と表現する字幕を見て、その手があったか!となりました。(笑) 堤さんもあれこれトライしてくれた部分なので、俳優と同じような過程で、字幕制作においても試行錯誤があったのがとても面白かったです。 監督:『旅と日々』はつげ義春さんのマンガが原作ですが、マンガというものは、オノマトペや擬音などを使った音声的な表現が豊かなジャンルですよね。これまでいろんな発明がある。そういったことにも改めて気付かされるような字幕でしたね。 松田:べん造の描写にはユーモアが多くありますよね(笑) 先ほど話した「日本昔話」の箇所では、少し遊びすぎかな……?と判断を迷っていましたが、OKをいただきました。木桶の中を見たべん造に対しても、監督から「凍り付くべん造」なんてどう?とご提案いただいたので、遊びを入れています(笑) [実際の音声ガイド原稿]凍り付くべん造。李が立って、のぞく。氷漬けになった金色の鯉。 監督:気に入っています。(笑) 第一印象からどんどんドライブしていって、最初には予想もつかなかった愛着がいつの間にか湧いてしまうというのは、映画の面白さだと思いますし、俳優のものすごい力です。 自己投影でも共感でもない愛着から、ユーモアが生まれる ――興味深い話をたくさんありがとうございました!字幕・音声ガイド制作は、作品が完成してから行われる工程です。この期間を経て、改めて『旅と日々』という映画について、どう考えていますか? 監督:映画を作りはじめるときは、あれもやりたい、これもやりたいといろいろな事を考えています。しかし、字幕・音声ガイド制作をしている時に改めて、この映画の特に後半の生命線はユーモアであるということに改めて気付きました。 自分からは遠い存在に、物語を追っていくことで、共感や自己同一化とは違う形で、愛着のようなものを持つ。その結果として、その人の挙動につい微笑む。そんなことが起きるかどうか、ガイド制作においても、鍵でした。ニヤっとできるかどうか、それがすごくわかりやすいチェックポイントになりましたね。 ――皆さん、ありがとうございました!最後に、映画『旅と日々』を観る方にメッセージをお願いします! 小嶋:私たちは普段から、作品の感想が第一に出てくるような字幕・音声ガイドづくりを心がけています。ぜひ、鑑賞後は作品の感想で盛り上がってくださいね。個人的には、シム・ウンギョンさんが演じる李のチャーミングさに惹かれています。私ももちろん劇場で鑑賞しますので、ぜひ一緒に楽しみましょう! 松田:何曜日なのか、いつの時代なのか、どこの国なのか、そんなことがどうでもよくなるひと時を味わえる映画です。ぜひ、映画館でご覧ください! 監督:字幕・音声ガイドと同じく、誰が監督したかなんかは忘れてもらいたいです。ユニークな登場人物たちの物語を ぜひ映画館で楽しんでください。 ――みなさん、ありがとうございました! 上映案内 『旅と日々』11月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー© 2025『旅と日々』製作委員会配給:ビターズ・エンドhttps://www.bitters.co.jp/tabitohibi/ 映画『旅と日々』は、11月7日(金)より全国の映画館で上映されています。日本語字幕付き上映も一部劇場で予定されています。詳しくは劇場情報ページをご覧ください。https://theaters.jp/27694 公開日より、アプリ「UDCast MOVIE」を劇場でお使いいただくことで字幕・音声ガイドをお楽しみいただけます。ぜひご利用ください。 また、一部スマホ利用OK館・タブレット貸し出し館では、お手持ちのスマートフォンや劇場貸し出しタブレットを用いて字幕をお楽しみいただくことも可能です。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。https://udcast.net/feature/udcast-movie_theaterlist/ (文・編集 樋田昌之)

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