通訳するではなく”演じる” 手話演者・那須映里さんが表現するもの
![]()
UDCastでは、手話で楽しめる舞台作品をご紹介しています。
最近、徐々に見かけるようになってきた手話つきの公演はいったいどのように作られているのでしょうか。
今年の夏、
・ディズニー・オン・アイス ”Magic in the Stars”〈東京公演〉
(以下、『ディズニー・オン・アイス』)
・青山メインランドファンタジースペシャル ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』
(以下、『ピーター・パン』)
の2作品で手話演者を担当する那須映里(なす・えり)さんにインタビューしました。
手話エンターテイナーとして、舞台やテレビなどさまざまな場所で活躍する那須さん。どのようなお話をお伺いできるのでしょうか?
本日はよろしくお願いいたします!
よろしくお願いします。手話エンターテイナーの那須 映里です。生まれつきのろう者で、『ディズニー・オン・アイス』『ピーターパン』では手話演者として出演します!
ろう者が聴者と同じタイミングで同じ気持ちになれるよう”演じる”
那須さんは、「手話演者」としてご出演されています。「手話通訳」とは異なる点も含め、「手話演者」について聞かせてください。
「通訳」というのは、違う言語同士で情報を伝えるのが主な役割であり、演技を行って”色”をつけることとはまた別物ではないかと思います。私は「手話演者」として、セリフの内容をきちんと伝えるだけでなく、演技に込められた思いを自分の中に取り込んで自分が演じているつもりで表現をしています。
どのように舞台の進行を把握しているのでしょうか。
ろう者が手話演者として出演する時は、セリフはモニターの字幕から把握します。また、フォローの手話通訳の方についてもらい、アドリブや歌のトーン、曲のテンポなどの音声情報を伝えてもらいます。

那須さんが正面に立ち、手話通訳とモニターの位置や距離をテストしている様子
フォローの手話通訳さんや字幕モニターが下にありすぎると、目線が下になってしまい、ろうのお客さんには違和感を抱かれてしまいます。できるだけお客さんと自然な目線で手話ができるように調整しています。
また、お客さんがどこから手話を見るのかを意識して手話を届けることも重要です。手話演者としてきちんと演技を届けるために、入念に下見を行っています。
主催団体と細かい打ち合わせを行い、ろう者が、聴者と同じタイミングで楽しみ、笑い、泣いて同じ気持ちになれる時間を届けることが手話演者の仕事です。
手話演者のやっていることについてよくわかりました。手話演者を担当するにあたって、心がけている点はありますか?
主役はあくまで舞台に立っている俳優であり、手話演者がメインではありません。そのために、私の手話を見つつ、俳優の演技を見てもらえるようにうまく誘導することが大事です。
聴者のお客様も、お芝居で表現をする手話演者をみて、手話つきの公演があることを知っていただけるように努めています。
『ディズニー・オン・アイス』は今年で2回目の出演となります。いよいよ来月ですが、心境をお聞かせください。
演目のほとんどに歌が織り交ぜられているのでとても大変です。音楽の尺に合わせ濃密な歌の内容を手話で表現するのはとても難しく、ドキドキしています。

昨年度『ディズニー・オン・アイス』会場の様子
今回は昨年の反省を踏まえ、通訳の方と連携し、音楽が止まるタイミングと手話を終えるタイミングを一致させるよう取り組みます。去年は途中からその方法を編み出したので今年は初日からその方法でやりたいです。
手話の終わるタイミングと音楽が終わるタイミングがピッタリ合っていると、ろう者が心地よく見られるのでトライしたいと思っています。
表現することが恥ずかしい、という気持ちを壊して舞台へ
お芝居やドラマだけではなく、Youtuberとのコラボなど、マルチに活躍されていますね。どのような経緯で「手話エンターテイナー」となったのでしょうか?
ろう学校に通った後、社会問題を解決したいと思い、ベトナムのろう者の社会問題にまつわる仕事を東京でしていました。社会人として1年働いた後に自分を振り返り、デンマークのフロントランナーズのリーダー育成プログラムに留学しました。留学では組織や表現などをテーマに学び、帰国後にお仕事を受けるようになりました。

フランスで行われた世界ろう芸術祭で手話バトル「Sign Slam」に出場。準優勝
留学や今のご活動などから、とてもアクティブな印象を受けています。幼少期から、人前に出ることが好きだったのでしょうか?
幼い頃は演じることより、小説を書いたり脚本を書いたりすることに興味を持っていました。自分で表現することが恥ずかしかったのですが、フロントランナーズに留学したことで考え方が変わりました。
フロントランナーズでは「表現することは恥ずかしくないし、恥ずかしい・怖いと思う気持ちを自分で壊してみないといけない」と言われました。その言葉を受けて表現についてのワークショップに参加していく中で、表現することが楽しいと思えるようになり、人前に立つのも大丈夫だと思えるようになりました。それからお仕事の依頼も受け始めました。
そうだったのですね。お仕事はどんなご縁で始められたのでしょうか?
VV(ビジュアル・ヴァナキュラー)を披露するオンライン大会に招待いただいたのがきっかけです。ろう者の女性らが参加する大会でアジア代表としてオファーされ、広島の原爆についてパフォーマンスしました。その評判が非常に良く、さまざまなお仕事に誘っていただけるようになりました。また、合理的配慮への関心が高まるなかで、情報保障のための手話翻訳をするようにもなりました。

広島の原爆についてパフォーマンスをしている様子
最初は日本語の内容を手話に翻訳する仕事が多かったですが、次第にお芝居の内容を手話で表現するものが増えていきました。演技の内容を手話で表現するためには、手話に演技を取り入れる必要があり、その結果手話演者として活動するようになりました。ドラマへの出演もその延長線上にあったもので、自然に道が開かれていったようなイメージです。
表現活動を生業とするようになった今でも脚本や演出を考えるのは好きで、「ニューバシ」という劇団で二人芝居をやっています。また、最近だと日本ろう芸術協会で脚本を書くお仕事をしました。脚本を書く機会も増えてきていますね。
日本語から手話へ。手話から日本語へ。
冒頭で「通訳」という言葉が出たように、手話と日本語それぞれに特色があるかと思います。那須さんは、手話のどんな点が面白いと思いますか?
単に言葉を話すだけでなく、空間や位置などを同時に表現できることが魅力です。
例えば、「毛が逆立っている猫」という言葉のように日本語では毛並みや形について順番に話さないと伝えられません。しかし、手話だとこのように同時に表現できます。演技の中でも、位置や表情でわかりやすく伝えられるのは手話の魅力ですね。

オンラインインタビューで実際に毛が逆立つ猫を表現いただきました
また、手話では物の形を表すCL(シーエル)という表現があり、これも日本語にはない手話の力だと思います。
※Classifierの略。物の形や材質、大きさや動きなどを表す手話。
日本語についてはどんな言葉だと思いますか?
日本語は韻やダジャレなどの耳馴染みの良い言葉遊びが多く、面白い言語だと感じます。
しかし、聴者が耳で聞いて心地よいと感じている表現は、手話に落とし込むと意味が分からなくなってしまうことがあり、翻訳する際は非常に悩みます。
逆に、手話にもダジャレのような表現があり、それを日本語に翻訳するのはとても難しいので、手話と日本語は別の言語だと感じています。
「ろうちょ~会」がろう者と聴者の架け橋に
那須さんはろう者と聴者が”声に頼らず”交流する「ろうちょ~会」も運営されています。この交流会を実施するきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
長井恵里さんがきっかけですね。耳が聞こえないことで何に困っているのか職場の人に分かってもらえる場所があるといいな、と長井さんや職場の先輩と話していて。お酒を飲みながらフランクに交流する場があるといいなと思って、長井さんに誘われてろうちょ~会を設立しました。
次第に、他のろう者の友人が同僚を呼んで、お酒を飲みながらゲームをして交流をして、職場の悩みや合理的配慮でどうしたらいいのか?などを話す時間も増えていきました。そうして、ゲームや交流を通してろう者の困りごとや経験を知ってもらう場所としてろうちょ~会はスタートしました。最近ではいろんな形を変えて開催して、最近は手話通訳者の人たちが来るようになり、いつも賑わっています。

ろうちょ~会の様子
那須さん自身はろうちょ〜会を運営することで、どんな発見がありましたか?
一番実感したのは、人が物理的に集まる場所ができるのはとても大切だということです。
ろうちょ〜会というプラットフォームに人が集まることでアイデアが生まれ、さらなる企画が生まれることがよくあります。
先日も、音楽ライブの情報保障についてディスカッションする企画を行い、たくさんのろう者・聴者が集まり開催されました。ろうちょ〜会がなければ対面でディスカッションできる機会はなかったので、とても大切だなと感じました。
合理的配慮の義務化で、対話の場が生まれる社会に
2024年4月1日施行の「障害者差別解消法」改正により、民間事業者の合理的配慮の義務化が定められました。那須さんの周りで、合理的配慮義務化によって変わったなと感じたことを聞かせてください。
舞台や音楽ライブに行く際に、情報保障についての問い合わせに対応してくれるところが増えてます。また、ろう者も義務化について知っているので、自分から交渉をすることも増えました。
以前、音楽ライブに行った際に情報保障の問い合わせを行いました。ろう者がどのようにライブを楽しんでいるか説明し要望を伝えることで、どう対応することが合理的配慮なのかを理解していただき、文字起こしアプリを使用して楽しむことができました。
以前は「できない」「準備をしていない」と一言で断られていましたが、合理的配慮が義務化したことで対話の場が生まれ、理解していただく可能性ができました。対話すらできなかった以前と比べると、これはとても大きな変化だと思います。
最後に今後宣伝したいことなどあればどうぞ!
「ディズニー・オン・アイス ”Magic in the Stars”〈東京公演〉」
「青山メインランドファンタジースペシャル ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』」にて、手話演者として出演します。ぜひ来てくださいね。手話公演が増えるのを願っています。
また、東京国際ろう芸術祭が11月6日から9日まで、座・高円寺で行われます。東京国際ろう芸術祭では、ろう者がメインとなった演劇や映画、阿波踊り、ゲームなど様々な催しがあります。聴者の方も楽しめるよう情報保障がついていますので、ぜひいらしてくださいね。
最後に、好きな映画をお伺いしたいです!
好きな映画、というと難しいですね。(笑)
また観たいと思う映画は、「インターステラー」です。そもそもSFが好きで、主人公が宇宙に旅立つ際に地球との間で葛藤したり、覚悟を決めたりするドラマが好きです
那須さん、ありがとうございました!
【那須映里さんプロフィール】
手話エンターテイナー/役者
東京都出身、高校までろう学校に通う。日本大学法学部新聞学科を卒業後、株式会社ボーダレス・ジャパンを経て2019年から2020年までデンマークのFrontrunnersでリーダーシップや組織、表現について学ぶ。帰国後は手話エンターテイナー、役者、国際手話通訳、国際関係で活動する。2022年フジテレビ「silent」出演。NHK 「みんなの手話」・「手話で楽しむみんなのテレビ」など各メディアにも出演中。
2024年、「ディズニー・オン・アイス2024」舞台公演に手話演者として出演するなど舞台やテレビの枠を超えて活動を広げる。
ACジャパン 2024CM 「決めつけ刑事」手話出演。
ディズニー・オン・アイス ”Magic in the Stars”〈東京公演〉
2025年7月25日(金)11時開演 / 7月26日(土)14時開演の2公演が手話つき公演となります!ただいまチケット発売中、詳しい情報は作品情報ページをご覧ください!
https://udcast.net/workslist/disneyonice2025/
青山メインランドファンタジースペシャル ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』
東京国際フォーラム ホールCにて上演される2025年8月1日(金)11:30開演 / 8月3日(日)16:30開演の2公演が手話つきとなっています!手話が見やすいお席の追加募集が7月4日(金)から開始。ぜひチェックしてみてください。
https://udcast.net/workslist/peterpan/
UDCastが作成した「合理的配慮のスタートBOOK」には、合理的配慮の事例がわかりやすく掲載しています。無料でダウンロードできますので、下記のリンクをぜひご覧ください!
「合理的配慮」のスタートBOOK を作成しました