障害のある観客に向けた鑑賞サポートについて:事業者アンケート調査報告
UDCastを運営するPalabra株式会社では、文化庁委託事業「令和6年度障害者等による文化芸術活動推進事業」障害者等による文化芸術活動の推進に向けた課題解決プロジェクトの一環として、2025年3月に「障害のある観客に向けた鑑賞サポート 事業者アンケート調査」を実施しました。
このアンケートでは、障害のある観客に向けた鑑賞サポートを実施する際に、劇団・劇場など舞台公演を主催する事業者が抱える課題を把握し、必要な施策について検証することを目的とした調査です。アンケートでは、125団体の皆様にご回答いただきました。
また、当アンケートは2022年度にも実施しました。このレポートでは、2022年度のアンケートと比較することで、2024年4月に民間における合理的配慮の義務化によって事業者の認識がどう変化したのかを分析します。
UDCastでは、文化庁委託事業の一環として文化芸術・鑑賞サポートの相談窓口を設けています。窓口では、鑑賞サポートを実施する事業者からのご相談も受け付けています。
「当事者から要望が来たが、どのようなサポートができるかわからない」「予算が少ない中でできるサポートはないか?」など、鑑賞サポートに関するご相談であればなんでも受け付けています。お気軽にご相談ください。
https://udcast.net/support/また、サイトではバリアフリー情報をまとめた「作品情報」ページを随時更新しています。UDCast対応・非対応を問わず、鑑賞サポートに対応している作品であればなんでもご紹介しています。作品情報への掲載をご希望される方は、UDCastサポートセンターへお気軽にご連絡ください。
UDCastサポートセンター(平日 10時~19時)
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合理的配慮の認知度は向上
合理的配慮という言葉を知っているか質問したところ、
「知っている」と答えた人の割合が 75.0%(93 件)(2022年度 56.6%/90 件)でした。
2022年度に比べ多くの人が「合理的配慮」という言葉を認知しています。

また、事業者への合理的配慮が義務化されたことについて、
「知っている」と答えた人が 66.1%(82 件)(2022年度 37.1%/59 件)
と、合理的配慮の義務化についての認知度も向上しています。

これらのデータより、2024年4月に事業者への合理的配慮が義務となったことにより、「合理的配慮」という言葉や義務化についての認知度が向上したことが伺えます。ただ、それでも約25%の事業者は「合理的配慮」という言葉を知らず、34%は義務化を知らないといった状況でした。
今回新たに設けた『合理的配慮の提供に当たって「建設的対話」を求められていることをご存じでしたか?』という設問について、
「知っている」と答えた人は 46.8%(58 件)でした。
「合理的配慮」という言葉は広く知られていましたが、「建設的対話」について知っている人は半数以下となりました。UDCastでは、文化芸術の「合理的配慮」や「建設的対話」の考え方について、BOOKや動画をご用意しています。ぜひご覧ください。
https://udcast.net/statement/#basics
また、各事業者に実際の合理的配慮の事例についてコメントをいただきました。一部を紹介いたします。(原文ママ)
落語とヒアリングループについて。聴覚障がいの症状が比較的軽度の場合は、ヒアリングループの利用が有効な鑑賞サポートにつながることが分かった。
(公立の文化施設)視覚障害者の方が、駅のホームまでの送迎を希望されて対応できた。 手が不自由な来場者は財布を取り出して現金対応が難しい為、事前のクレジット決済で対応できた。 聴覚障害者の来場者と受付で筆談で会話できた。
(実演団体(劇団、プロデュースユニットなど)、東京都)弊社では芝居の上演前に「舞台説明会」(視覚障害者を対象に、舞台装置や衣裳などを舞台上から約30分で説明するイベント)を実施しています。これは約30年前に視覚障害者の方から要望をいただいて実施を開始したものです。
(実演団体(劇団、プロデュースユニットなど)、東京都)伝統芸能の専門用語の飛び交う講座やレクチャーで、要約筆記を実施。利用者からは情報量が多く集中力が持たなかったという意見が多かった。専門用語が多いため、手話も有効ではない。
(公立の文化施設)事前にそのお客様から問い合わせがあった自己申告から成り立っているので、その情報をどのように取りあえば良いかは課題だと思います。
(実演団体(劇団、プロデュースユニットなど))
過重な負担のない範囲で合理的配慮を実現できた事例などが寄せられました。いずれも、当事者自身からの要望や相談を基に、実現につながったケースが多いです。また、専門的な知識や費用面から、合理的配慮が実現できなかったコメントも寄せられました。
多岐にわたる需要、ノウハウの周知が必要
「貴団体では、障害のある観客から舞台公演を鑑賞するためのサポートをして欲しいというお問い合わせを受けたことはありますか?」という設問では、
「ある」と回答した団体の数は 100 件(回答者全体の80.6%)でした。
また、「ある」と回答された方を対象に「これまでに来場された観客の障害の種別を教えてください(複数回答可)」と伺ったところ、
多い順から、
肢体不自由80件、
視覚障害47件、
聴覚障害66件の回答がありました。
また、この3つのほかに、知的障害・精神障害・発達障害・認知症・内部障害などの障害種別が挙げられていました。
このことから、さまざまな方が舞台作品を見たいと思い、鑑賞サポートのニーズが多岐に渡っていることがわかります。
「貴団体が既に実施しているサポート、もしくは実現できそうなサポートは次のうちどれですか?(複数回答可)」という設問については、以下の項目が非常に多かったです。
▽きこえない・きこえにくい方への聴覚サポート(上位3件)
受付での筆談対応 112 件(2022年度 147 件)
台本・資料の事前貸し出し 81 件(2022年度 93 件)
問い合わせのメール表記と対応 74 件(2022年度 89 件)▽みえない・みえにくい方への視覚サポート(上位3件)
場内誘導 95 件(2022年度 130 件)
問い合わせの電話番号表記と対応 56 件(2022年度 68 件)
上演中の音声ガイド(解説) 35 件(2022年度 31 件)▽その他のサポート(上位3件)
座席位置の配慮 100 件(2022年度 132 件)
介助者チケット割引 53 件(2022年度 73 件)
託児、子供のサポート 49 件(2022年度 58 件)

このデータをみると、「受付での筆談対応」「場内誘導」「座席位置の配慮」など、マンパワーで対応できる鑑賞サポートについて、すでに多くの団体で実施できる、または実施できそうだと回答されていることがわかります。
また、このほかには、
(見えない・見えにくい方向け)音声データ版の資料提供:21件(2022年度 9件)
(きこえない・きこえにくい方向け)上演中のタブレット貸し出し:40件(2022年度 21件)
などの項目が2022年度に比べて上昇していました。アンケートの全体母数が減少していることも鑑みると、非常に件数が増えていることがわかります。
しかし、「舞台説明会」「音声データ版の資料提供」「ヒアリングループ等きこえやすくするための機器の設置」など、一般的に馴染みのない施策については回答数が少なかったため、鑑賞サポートノウハウの周知が必要とされています。
鑑賞サポートの拡充には何が必要なのか
「どういった条件があれば、さらに他の鑑賞サポートも実施できると思いますか?(複数回答可)」という設問を設けたところ、次のような回答が得られました。
財源の確保 115件/回答者全体の92% (2022年度 140件/88.1%)
専門スタッフの配置 80件/回答者全体の64% (2022年度 119件/74.8%)
鑑賞サポートが一般客に認知されること 62件/回答者全体の49.6% (2022年度 78件/49.1%)
鑑賞サポートが必要な観客の動員 57件/回答者全体の45.6% (2022年度 59件/37.1%)
貴団体のスタッフに向けた研修の実施 49件/回答者全体の39.2% (2022年度 66件/41.5%)
財源の確保および専門スタッフの配置と答えた団体が非常に多いです。さらに、2022年度に比べると「財源の確保」と回答した回答者全体の割合は増加しています。

「財源の確保」と回答した団体の中には、専門スタッフの人件費についてコメントした団体もあります。他のコメントにも同様の記述があり、「財源の確保」および「専門スタッフの配置」の2つの課題は密接に絡み合っていると考えられます。
財源の確保が困難な理由として、専門スタッフの配置の必要性があります。舞台公演においては、福祉の知識を持つ人、ステージや舞台運営に精通した人、イベント制作や接客のプロなど、多角的な視点を持つスタッフが求められます。(実演団体(劇団、プロデュースユニットなど)、東京都)
鑑賞サポートは、誰もが同じように公演を楽しむために重要なものです。鑑賞サポートがあるのが当たり前になるよう、認知度の向上や普及、鑑賞サポートを必要とする当事者へのアピールに努めます。
また、鑑賞サポートについて困難に感じている事項についてコメントを募りました。コメントでは、鑑賞サポートを準備しても、必要な人々に届けるのが難しいという声も多くありました。
ろう者へはSNSなどを通して発信できているが、その他の鑑賞を希望する観客へのコンタクトをどのようにすればよいかがわからない。
(実演団体(劇団、プロデュースユニットなど))実際に鑑賞サポートを用意しても、必要としている方々への周知にまで手が回らないことがある
(公共の文化施設)
また、鑑賞サポート体制を整えようとしても、劇場や制作の都合上、鑑賞サポートを提供することが難しいという声も寄せられました。
現在、ほとんどの劇場に車椅子席があるように、すべての劇場に視覚・聴覚障害のある方々向けのこれらのサポート体制が整備されることが一番望ましいことだと考えます。
(実演団体(劇団、プロデュースユニットなど))地方の劇場で、首都圏で製作された公演を招聘して実施することが多く、その製作元が鑑賞サポートを実施していれば、当劇場でも実施することはあるが可能である。しかし、製作元でもともと実施していない公演に、地方の劇場が独自に字幕・舞台説明などを加えることは時間的にも、作家・演出家・出演者などとの調整も困難であることなどから、実施できる内容および公演が限定的になる
(公立の文化施設、愛知県)
鑑賞サポートは、誰もが同じように公演を楽しむために重要なものです。UDCastでは、鑑賞サポートがあるのが当たり前になるよう認知度の向上や普及を促し、鑑賞サポートを必要とする当事者へ届くように努めます。
まとめ
アンケート結果を見ると、2022年度に比べると合理的配慮への認識が高まり、鑑賞サポートへの取り組みが進んでいることがわかりました。しかし、さまざまな要因が重なり、多くの事業者の間で実施されている鑑賞サポートと実施されていないサポートの差が明らかになっているのも事実です。
UDCastの鑑賞サポート相談窓口では、事業者からの相談も受け付けています。分からないことや不安なことがあれば、相談窓口ページよりお気軽にお問い合わせください。
また、「作品情報」ページでは、UDCast対応作品以外も掲載し、バリアフリー対応作品情報を多くの当事者に周知しています。掲載を希望される方はメールよりUDCastサポートセンターまでお問い合わせください。
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