【報告会レポート:前編】障害のある観客に向けた鑑賞サポートアンケートの調査結果
昨年度舞台公演を主催する事業者に実施したアンケート結果の報告会を、2023年7月に開催しました。前編では、この時に報告した調査結果(抜粋)を、レポートとしてご紹介します!
令和4年度 障害者等による文化芸術活動推進事業「障害のある観客に向けた鑑賞サポートに関するアンケート調査」結果報告(抜粋)
障害のある観客に向けた鑑賞サポートを実施する際に、劇団・劇場など舞台公演を主催する事業者が抱える課題を把握し、必要な施策について検証することを目的として実態調査を行いました。
「障害者差別解消法に関する意識調査」、「現在の鑑賞サポート対応状況」、「障害のある観客を対象とした鑑賞サポートへの意識調査」などについて調査を実施し、舞台公演を主催する事業者から160件の回答が得られました。
調査目的
舞台公演を主催する事業者が障害のある観客に向けた鑑賞サポートを実施するにあたり、どのような困りごとや課題があるのか把握し、必要な施策について検証する。
・基本情報
・障害者差別解消法に関する意識調査
・現在の鑑賞サポート対応状況
・障害のある観客を対象とした鑑賞サポートへの意識調査
調査概要
調査対象:舞台公演を主催する事業者(劇団、制作会社、劇場等)
調査期間:2022年7月1日~8月31日、2022年11月1日~12月26日
調査方法:インターネット、FAXによる任意回答
送付先:舞台関係団体 舞台制作者向けメールマガジン 配信数約3,000人
劇団、制作会社、主催公演を行う劇場等 585件
回答数:160件 ※基本情報・コメントのみ回答1件
回答率:参考 16.1%(個別送付数 回答数 94件/585件)
基本情報: 劇団から99件、劇場関係から75件の回答があった。34都道府県の団体から回答があり、東京都で活動する団体からの回答が最も多く74件、次に大阪府12件、神奈川県(9件) となった。
1)障害者差別解消法に関する意識調査
「合理的配慮」という言葉はご存知でしたか?
知っている・・・56.6%(90件)
意味は分からないが聞いたことはある・・・13.8%(18件)
知らなかった(このアンケートで知った)・・・29.6%(47件)
自治体では100%が「知っている」と回答。次いで公立の文化施設が85%、文化財団も85%が知っていると回答した。実演団体や制作会社では、「知らなかった」と答える方が多くいた。
※以下、画像のグラフ・表には代替テキストをいれています。
※属性別回答結果については、団体によって、属性を複数回答されたところがあった。また14団体が劇団・劇場の両方を選択した。
障害者への「合理的配慮」が国や自治体に加え、事業者も義務化されることについてご存じでしたか?
知っている・・・37.1%(59件)
聞いたことはある・・・16.4%(26件)
知らなかった・・・46.5%(74件)
合理的配慮の義務化に関する意識がやや低い。「知っている」と答えた方が、公立の文化施設で68%、自治体で66%で、合理的配慮自体の認知に比べ低かった。
※属性別回答結果については、団体によって、属性を複数回答されたところがあった。また14団体が劇団・劇場の両方を選択した。
2)現在の鑑賞サポート対応状況
貴団体では、障害のある観客から舞台公演を鑑賞するためのサポートをして欲しいという問い合わせを受けたことがありますか?
問合せを受けたことがある・・・74.2%(118件)
ない・・・22.6%(36件)
わからない・・・3.1%(5件)
問い合わせのあった障害種別
肢体不自由・・・85.6%(101件)
聴覚障害・・・63.6%(75件)
視覚障害・・・44.9%(53件)
その他、知的障害22件、精神障害15件、発達障害12件、内部障害4件。それ以外にも、複数の障害がある方などの個別に自由回答が寄せられた。
問い合わせを受けて対応できたサポート内容
最も多かったのは車椅子の席の用意で、42件の回答があった。複数の障害に対応できたサポート内容として、場内案内・座席への誘導が32件、座席位置の配慮は16件が挙げらた。
作品へのアクセシビリティとして、情報保障では台本や資料の貸し出しという回答が21件あったものの、字幕は12件、音声ガイドは5件と少なかった。
鑑賞に障害のある観客の来場状況
障害のある観客が来場したことがある・・・98%(156件)
実際に来場があった障害種別は、肢体不自由が86.8%(138件)、聴覚障害が58.5%(93件)、視覚障害が55.3%(88件)となっている。
3)鑑賞サポート実施に関する意識調査
鑑賞サポート実施において一番困難に感じていること
財源の確保・・・51.6%(82件)
専門スタッフの配置・・・25.2%(40件)
鑑賞サポートが必要な観客の動員・・・9.4%(15件)
※個人以外の全ての運営形態・所属においても財源の確保が一番の課題に挙げられた。
回答者の方が困難に感じる理由(抜粋):
●財源の確保
マンパワーも予算もすでに限界(実演団体)、補助金を得るのが困難(舞台制作会社)、施設の改修等が必要(公立の文化施設)
●専門スタッフの配置
人手不足(文化財団)、専門スタッフに心当たりがない(実演団体)
●鑑賞サポートが必要な観客の動員
劇場まで足を運んでもらうハードルが高い(舞台制作会社)、宣伝が個々への情報提供になるため時間がかかり広がりにくい(実演団体)
●貴団体内部での理解が得られること
制作は危険回避で避ける傾向がある(実演団体)、なるべく対応したいが積極的な動きはない(実演団体)
●鑑賞サポートが一般客に認知されること
情報をキャッチしてもらうのが難しい(公立の文化施設,文化財団)、何が合理的なサポートとして認知されるのか不明(文化財団)
●その他
当事者へのヒアリングや検証が必要、貸館事業者にも運用マニュアルが必要(公立の文化施設)
条件が整ったとして様々な鑑賞サポートを実施したいと思いますか?
実施したいと思う・・・91.2%(145件)
思わない・・・1.3%(2件)
わからない・・・7.5%(12件)
思わない理由:現状の対応について特段のご意見等がない(公立の文化施設)
わからない理由:鑑賞サポートの種類やサポートを必要とする人数が分からない(公立の文化施設)、専門スタッフの必要人員に見合う利用希望が存在するのか不明(公立の文化施設)
鑑賞サポート実施について相談・業務委託できる窓口があれば利用したいと思いますか?
思う・・・63.5%(101件)
わからない・・・24.5%(39件)
既に相談・業務委託している・・・10.1%(16件)
思わない・・・1.9%(3件)
アンケート結果よりまとめ
アンケートの結果から、
他方で、このアンケートに回答するということで、鑑賞サポートに興味のある事業者が多い傾向があるのか、「具体的なサポート内容」の項目ではすでに問い合わせを受けて何らかのサポートに取り組まれている事業者が多い状況でした。「条件が整えば実施したい」との回答が9割に上り、鑑賞サポートについて前向きに捉え、始めていきたいという意思が感じられました。
事業者課題としては、「財源の確保」「専門スタッフの配置」「鑑賞サポートが必要な観客の動員」が上げられ、一番の課題は資金面の問題で、「やってみたいという興味があっても実際には難しいという現実がある」などの声が寄せられました。
UDCastの鑑賞サポート相談窓口では、これら把握した課題をもとに事業者支援を実施しています。また、UDCastのWEBサイトを通じた広報支援や鑑賞サポートのモデル公演を実施しています。これらの取り組みについては、今後もこちらの特集記事ページでアップしていきますのでご期待ください。
なお、レポート記事後編では、株式会社momocan代表の半田桃子さんと、特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク理事長の廣川麻子さんによる対談から、具体的な鑑賞サポート事例を取り上げます。お楽しみに!
上記のアンケート結果について、2023年7月に実施したアンケート結果の報告会の参加者には全文の資料をお送りしています。ご希望の方は、鑑賞サポート相談窓口までお問合せください。
文化庁委託事業「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
障害者等による文化芸術活動の推進に向けた課題解決プロジェクト