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自分らしく生きることを尊重する――映画『私たちの話し方』アダム・ウォン監督インタビュー記事

2026年3月27日(金)にアダム・ウォン(黄修平)監督の映画『私たちの話し方』(原題:看我今天怎麼說、英題:The Way We Talk)が公開されます。本作は、ありのままの自分で生きようと模索する、異なる環境で育った20代の3人のろう者の青春群像劇です。2024年金馬奨 最優秀主演女優賞(ジョン・シュッイン)受賞、2025年香港電影金像奨 7部門ノミネートなど、数々の賞を受賞しました。

UDCastを運営するPalabra株式会社(以下、パラブラ)では、文化庁委託事業「令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業」にて、本作の字幕・音声ガイド制作協力を行っています。今回、バリアフリー版制作のモニターの皆様から寄せられた「ぜひ監督に聞いてみたい」という質問をもとに、アダム・ウォン監督にお話を伺いました。

主人公3人が食事をしながら手話で会話している様子

※当記事は映画『私たちの話し方』の内容への言及を含みます。ご注意ください。

製作のきっかけは、ろう者の文化に誇りを持った人々を知ったこと

字幕制作のモニターの方から、「監督はなぜろう者の気持ちがこんなにわかるのか」との声をいただいています。

私、そして私の家族も聴者です。この映画を作ったのは、「ろう」というアイデンティティや文化に誇りを持っている人たちに興味を持ったのがきっかけです。

映画を製作しようと思ったきっかけについて、詳しく教えてください。

6年前(※インタビューしたのは2025年)、短編映画『海底私語』の脚本を読む機会がありました。その作品の中では、ろう者がダイビングをしながら海の中で手話で話していました。自由自在に話す様子に感動しました。

その後、その短編映画の脚本を手がけた方とお話しする機会がありました。彼女はろう者のことに詳しく、ろう文化についてさまざまなことを教えてくれました。例えば、ろう者の生活や、彼らがおかれている状況などについてです。

そして彼女が「ろう者は、手話という言語や自分たちの文化について誇りを持っているんだよ」とも教えてくれたので、様々なことに気付くことができました。

浜辺でアラン・ジーソン・ソフィーの三人があつまり、ジーソンが手話で話している。

「自分のものではない文化を撮っている」という意識

作中では香港社会のろう者・難聴者の現状が描かれていました。彼らの置かれている実情について課題に感じていることは何ですか。

ろう者が困難な状況におかれていることや、ろう者コミュニティの中でも対立があることは、作中で描かなければならないと感じていました。この問題は、香港だけでなく、いろいろな地域や国で共通しているのではないかと思います。

監督が、聴者としてこの作品を撮った意義は何でしょうか。

製作時は、自分が聴者であり、「自分のものではない文化を撮っている」ということを意識していました。

ろう者の実体験を聞いて影響を受けはしましたが、私はろう者ではありません。彼らを尊重するために、ろう者と一緒に作り上げていくことが必要だと考えました。そのため、リアリティを追求するためにさまざまなリサーチを重ねました。

そうですよね、パラブラでもバリアフリー字幕を制作する際に、きこえない・きこえにくいモニターと一緒に映画を観る「モニター検討会」を実施しています。モニターからは、俳優の起用に関して質問がありました。主役の3人について、きこえる俳優を採用した理由、もしくは当事者の俳優を採用できなかった理由はありますか。

これはもう縁ですね。私は、香港のコミュニティでも当事者俳優が起用されたほうが良いと考えを持っていました。しかし、オーディションでたくさんの人と出会っても、役にぴったり合う方を見つけられませんでした。

香港の人口は少なく、ろう者俳優に出会うことも難しいです。もし主人公3人を演じるに適したろう者に出会えたなら、3人ともろう者俳優にしたと思います。

私自身も、聴者がろう者を演じることは、表現を追求する意味でも、ろう者を排除した構造になっている意味でも注意しなければならない問題だと思います。この作品の製作においても、スタッフと相談したりろう者の意見を聞いたりしました。結論として、主役の3人のうち少なくともひとりは当事者が演じることを落としどころにしました。

そして、この映画をきっかけにろう者俳優が一人誕生しました。アラン役のマルコ・ン(吳祉昊)さんです。彼は、香港で第一号のろう者の映画俳優となりました。

アラン役のマルコ・ン(吳祉昊)さん

視覚的演出を重視した作品における音声ガイドの面白さ

香港での上映でも、字幕や音声ガイドをつけていたとお聞きしました。字幕や音声ガイドによって、より多くの人に作品を届けることができると思います。このことについて、思うことを教えてください。

字幕はもちろん、特に音声ガイドは、面白く意義があることだと思います。
本作はろう者の世界を描いており、撮影も視覚を重視した演出にしています。

音で画面の様子を説明する音声ガイドでは、映像とは異なる方法で作品が表現されます。音声ガイドを新たに聞くことで、コミュニケーションの難しさや壁のようなものを超えた瞬間を見ることができたと感じています。

香港での上映初日に、音声ガイドを利用しながら本作を鑑賞した後、近くの席にいたみえない観客と話しました。その時、彼が「尊重する」という手話を自分にやって見せてくれたのです。音声ガイドによって動きが分かって、私に伝えてくれたことに感動しました。

ジーソンが「尊重する」という手話を使っている様子

「自分らしく生きる選択を尊重する」

監督が、本作を通して伝えたかったことはありますか。

本作を通じて伝えたかった事は、ろう者それぞれの選択を尊重することです。

選択した結果によっては、ろう者のコミュニティに認めてもらえないような選択もあるかもしれません。しかし、それぞれが自分のアイデンティティを確立して自分らしく生きることを尊重する。これが大事だと私は考えます。

本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

アダム・ウォン監督プロフィール

1975年、香港生まれ。香港中文大学(CUHK)入学後、アイオワ大学への留学中に映画制作を学び、短編映画の製作を通して監督としてのキャリアをスタートさせる。大学卒業後も短編映画を複数発表し、2004年に『ベッカム、オーウェンと出会う』で長編デビュー。同作で香港アジア映画祭のインディペンデント・スピリット賞を受賞した。

続く『魔術男(原題)』(07)では、第27回香港電影金像奨新人監督賞に初ノミネート。『The way we dance -狂舞派-』(13)では、第33回香港電影金像奨新人監督賞を受賞し、数々の映画賞にノミネートされるなど高い評価を得た。その後も『私たちが飛べる日』(15)も好評を得て、『狂舞派3』(21)は、第57回金馬奨で6部門にノミネートされ、同映画祭クロージング作品として上映。さらに、アジア・フィルム・アワードで最優秀作曲賞を受賞し、同年の香港映画評論学会の推薦作品にも選出される。

本作『私たちの話し方』(24)は、第68回 BFIロンドン映画祭でプレミア上映され、第61回金馬奨、第43回香港電影金像奨で多数の賞にノミネート。第24回ニューヨーク・アジア映画祭では観客賞を受賞。監督業の他に、俳優として映画やドラマにも出演。スタジオ・ジブリ作品『風立ちぬ』(13/宮崎駿監督)では、主人公・堀越二郎の広東語版声優を務めた。さらに、テレビCM の演出や大学で映画制作指導など、幅広い活動を行い、香港映画界を代表する一人として注目を集めている。

上映案内

『私たちの話し方』

3月27日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー
© 2024 One Cool Film Production Limited, Lee Hysan Foundation. All Rights Reserved.
配給:ミモザフィルムズ
https://mimosafilms.com/thewaywetalk

映画『私たちの話し方』は、3月27日(金)より全国の映画館で上映されます。

すべての上映で、バリアフリー日本語字幕がスクリーンに表示されます。詳しくは劇場情報ページをご覧ください。
https://theaters.jp/30362

公開日より、アプリ「UDCast MOVIE」を劇場でお使いいただくことで音声ガイドをご利用いただけます。通常の音声ガイドと合わせて、字幕の読み上げが再生されます。

字幕読み上げのみのメニューもございます。字幕の読み取りが難しい方にも、日本語吹替版のようにご利用いただけます。ぜひご利用ください。

また、一部スマホ利用OK館・タブレット貸し出し館では、お手持ちのスマートフォンや劇場貸し出しタブレットを用いて字幕をお楽しみいただくことも可能です。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。
https://udcast.net/feature/udcast-movie_theaterlist/

文化庁委託事業

文化庁委託事業「令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
障害者等による文化芸術活動の推進に向けた課題解決プロジェクト
主催:文化庁、Palabra株式会社
制作:Palabra株式会社

文化庁ロゴ。「文化庁 Agency for Cultural Affairs, Government of Japan」という印字がある。

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