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【ヨーロッパ企画】が提供する理想的な鑑賞サポート 劇団員が担う常設体制とは

今回ご紹介するのは、京都を拠点に活動する劇団「ヨーロッパ企画」の鑑賞サポート実例です。
昨年上演された『あんなに優しかったゴーレム』公演で、鑑賞サポート相談窓口にご相談があったことをきっかけに、日本語字幕や音声ガイド等の鑑賞サポート付き公演が実現しました。

今回の『切り裂かないけど攫いはするジャック』では、前回よりも対象公演を増やし、プレビュー公演をのぞく全国9都市の公演で字幕付き上演を実施します。ほとんど全公演への鑑賞サポート対応となった今回の実施体制や取り組みへの想いについて、劇団制作の渡辺様にお話を伺いました。

あんなに優しかったゴーレム ポスター画像

思ったより気軽にできる仕組みがあったので 導入してみることになった

ーー昨年上演した『あんなに優しかったゴーレム』 で初めて字幕タブレットを導入されましたが、きっかけについてお聞きしてよろしいですか?

当事者のお客様からお問い合わせを頂いたのがきっかけでした。字幕での鑑賞サポートは大掛かりなイメージがあり、なかなか難しいのではと思いながら調べてみたところ、思っていたより気軽にできる仕組みがあったので導入してみることになりました。

「あんなに優しかったゴーレム」の上演会場の様子、手前に客席後方に設けられた字幕操作ブース

画像: 字幕の送り出し操作を行うブース(手前の長机)、奥に見えるのがゴーレム


ーー昨年の公演で実際に鑑賞サポートを実施してみていかがでしたか?

思ったより気軽にできるものなんだなと感じました。画面の光などで他のお客様の鑑賞の妨げになるのでは、と思っていましたが画面フィルムなどで対策されており、そういった心配は全くありませんでした。

大きな機材を持ち歩いたり、専門のスタッフさんにお願いすることなく自分たちだけで運用できることも、各地を巡演する上でとてもうれしいポイントでした。


ーー「思ったより気軽」というお答えが意外です。機材がコンパクトで、自分たちで運用できることがポイントとして大きかったんですね。逆に大変だったことはありますか?

一番大変だったのは、スピード感のある会話劇の場合、字幕送りのタイミングに慣れが必要なことです。セリフの間に慣れてきてからは、難なくできるようになりました。

ノートパソコンで字幕操作を行う様子

画像: 実際の字幕操作画面の様子、PC前にあるのは観客用の字幕タブレット


ーー字幕送りの話も出ましたが、ヨーロッパ企画さんの鑑賞サポート実施体制についてお聞きしてよろしいですか?

まず、字幕タブレットの運用は、基本的に劇団の制作スタッフ2人で行っています。

お客様の座る席にあらかじめタブレット端末を設置しておき、着席された後にスタッフが伺い、高さの調節、簡単な操作説明を行います。本編中の字幕送りも2人交代で行っています。

また視覚に障害のある方向けに、事前にキャストそれぞれが自分の役柄と衣装について説明する動画(登場人物紹介動画)をお送りしたり、本番前に舞台上のセットの説明(事前舞台説明会)を行ったりもしました。

客席後方に設けられたPAブースの横に字幕操作ブースが並ぶ様子

画像: ノートパソコン1台と大きめのルーターで客席へ字幕を送信する

客席に設置された字幕タブレットの様子

画像: 客席に設置された字幕タブレット


ーー視覚に障害のある方向けに、登場人物の紹介動画の制作や、事前の舞台説明会をされたとのことですが、すべて劇団で用意されたのでしょうか?

他劇団様の動画などを参考にしながら、自分たちで台本を作りました。その後、登場人物紹介動画の撮影を行い、Youtubeで限定公開し、メールで視聴のURLをお送りしました。
事前舞台説明会は、開場の15分前に会場内へご案内し説明しました。舞台上で手を叩いて、足音を大きく鳴らしながら端から端まで歩くなどして、広さなどを想像していただけるよう心掛けました。

ホームである京都の方々にも鑑賞サポートをお届けしたい

ーー今年の9月から上演の『切り裂かないけど攫いはするジャック』では、プレビュー以外の全公演で字幕タブレットで実施するとお聞きしました。対象公演を増やされたのには理由があるのでしょうか?

前回公演の『あんなに優しかったゴーレム』では、ツアー行程の3か所目に当たる東京公演から初めて字幕タブレットによる鑑賞サポートを実施したのですが、やはりホームである京都の方々にもサポートをお届けしたいと思い、今回は2か所目(※)の京都公演から実施することになりました。
※1箇所目はプレビュー公演

メインビジュアル_切り裂かないけど攫いはするジャックA

ヨーロッパ企画のWEBサイトより、「バリアフリー字幕のタブレット貸出実施について」ご案内ページの画像

画像: 鑑賞サポートエリアを設けず自分の席で字幕タブレット利用できる


ーー鑑賞サポート対応日を限定する団体が多い中で、すべての上演回で字幕対応とは理想的ですね! 好きな日時でサポートを受けられるわけですね。
前回の『あんなに優しかったゴーレム』でも、実施会場では同様に全公演対応されていたかと思います。 利用された方からの反響はありましたか?

今まで会場に足をお運びいただけなかったお客様からはお喜びの声を頂きました。
ぜひ来年も、というお声も頂き、サポートを継続する後押しになりました。


ーー今回の公演では「託児サポート」や「子供鑑賞体験支援」も実施されますが、以前からこうした子育て世代へのサポート問い合わせも届いていたのでしょうか?

託児サポートは15年前から行っています。子育て世代のお客様の足が劇場から遠のいてしまわないように始めたサービスです。
お子さんが就学されるまでは託児サービスをご利用いただき、就学されてからは家族揃って観劇していただけたり、大人になってから子供の時に託児サービスに預かってもらった思い出話を聞かせてくださったりと、ご好評をいただいております。


ーー託児もあって鑑賞サポートも提供されるのは、本当に手厚くてありがたいですね。劇団がここまで考えてくれるのはファンにとっても嬉しいことですね。
最後に、今回の『切り裂かないけど攫いはするジャック』の見どころについて教えてください。

はい、主宰の上田誠のコメントでご紹介できればと思います。
『ヨーロッパ企画ができて25年経ちました。その時々でこれが最高で青春、ということをやっていたら25年、という感じです。「やっと色々少しずつ分かってきたし、ここから面白くなっていきそうだ」というのが正直なところです。精神はそうであるとして肉体はもちろんその限りではなく、初期からいたメンバーはすっかりおじさんになっているんですが。

さて今回はミステリ劇をします。やったことないし今までは高いハードルを感じてましたけど、今の僕らならきっと面白いミステリコメディが作れるでしょう。場所はロンドン。

切り裂かないけど攫いはする、謎の怪人ジャックが徘徊しているイメージです。ジャックは誰なのか。何が目的なのか。攫ってどうするのか。攫うってジャックひとりでできることなのか。集団名なのか。誰が言い出したのか。いつまで続けるのか。衰えはいつ来るのか。すべては霧の中です。(上田誠)』

 

まとめ

関西の人気劇団「ヨーロッパ企画」は、希望する日時の公演でサポートがいつでも受けられる、鑑賞サポートの”常設”体制がとられていました。
鑑賞サポートエリアも固定されず、利用者がチケット購入した座席位置で字幕タブレットを利用できるという、理想的な観劇環境が提供されています。

後者はUDCast LIVEの特性によるものですが、前者の鑑賞サポート常設体制は、公演にいる劇団員が字幕操作を担うことで、鑑賞サポート日時に柔軟に対応しているという劇団側の実施体制が反映されています。
全国を巡回公演する際のオペレーターの外注費用を節約できるメリットもあり、劇団のリソースと合致した持続可能な運営方法が検討されている点としても大きなポイントです。

ここまで理想的な環境を取り入れるのは難しいかもしれませんが、まずは自分たちの団体が持つリソースや、事情に合わせた鑑賞サポートの運営体制を検討し、その中で無理なく取り組める方法を見つけることが大切かと考えます。本記事がそのきっかけになればと思います。

バリアフリーコンサル事例」では、事業者の方へのサポート事例をご紹介しています。ぜひ活動のご参考にしてください。お困りのことがあればご相談をお寄せください。

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ヨーロッパ企画 プロフィール

劇団。京都を拠点に活動。コメディを上演している。
京都を拠点に活動している劇団。1998年、同志社大学の演劇サークル内で結成。
SFやファンタジー、非日常的な設定における群像コメディを得意としており、珍しい構造や仕掛けに富んだ「企画性コメディ」を標榜している。映像や音楽、特殊造形なども取り入れた、エンタテインメント性を志向した舞台で、年に1度ほどの本公演ツアーを行っている。
また、映像分野でも活動の幅は広く、番組制作や映画製作、ライブ配信などを独自のスタッフで行う。ほかにも、イベント、Blu-rayやDVD、スマホゲーム、ラジオなど、創作分野は多岐にわたる。
個々の俳優業や、監督業・作家業も盛んであり、外部作品に関わることも多い。
劇団であることを礎としながら、演劇の枠にとらわれない、独自のフィールドを開拓しつづけている。
https://www.europe-kikaku.com/

記事を書いた人

編集:細貝由衣 Palabra株式会社大阪オフィス/相談員
UDCastサポートセンター「文化芸術全般の鑑賞サポート相談窓口」の関西オフィス担当。ART COMPLEXでSTUDIO PARTITA立ち上げに携わる。ほか、アーティスト・イン・レジデンスや市民協型働事業などを担当。大阪の認定NPOにてファンドレイジング・PRを担当したのちに2022年よりPalabraに入社。

 

ヨーロッパ企画第42回公演「切り裂かないけど攫いはするジャック」

鑑賞サポート対応日 2023年9月14日(木)~11月12日(日)
鑑賞サポート対応内容 字幕、手話、その他 

【UDCastLIVE 字幕タブレット対応公演】
京都公演 京都府立文化芸術会館 9/14(木)~9/17(日)
東京公演 本多劇場 9/20(水)~10/8(日)
高知公演 高知県立県民文化ホール グリーンホール 10/11(水)
福岡公演 キャナルシティ劇場 10/14(土),10/15(日)
広島公演 JMSアステールプラザ 中ホール 10/17(火)
大阪公演 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ 10/20(金)~10/22(日)
横浜公演 関内ホール 10/28(土)
名古屋公演 愛知県産業労働センター (ウインクあいち) 大ホール 11/3(金祝)
魚津公演 新川文化ホール 小ホール 11/11(土),11/12(日)

公演詳細はこちらから
https://udcast.net/workslist/europe-kikaku-42/

 


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