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「こうでなきゃ」をぶち壊す 図らずも“未来”に向かった作品

映画『さかなのこ』沖田修一監督、西ヶ谷寿一プロデューサーインタビュー

映画『さかなのこ』の沖田修一監督と西ヶ谷寿一プロデューサーに、パラブラ代表山上庄子がお話を伺いました。これまで『南極料理人』『横道世之介』など、数々の作品でタッグを組んだおふたりが語る映画『さかなのこ』の成り立ちは、予想外の連続でした。さらに数々の作品でバリアフリー版制作の監修をつとめる西ヶ谷プロデューサーからは、その面白さと沖田監督作品ならではの難しさについてお話いただきました。

さかなのこ ポスター

山上庄子(以下、山上):『さかなのこ』という作品が出来たきっかけをお願いできますでしょうか。

西ヶ谷寿一プロデューサー(以下、西ヶ谷):『南極料理人』を作って公開するときに、たまたまある人から「さかなクンの事務所の社長さんが(西ヶ谷)プロデューサーを知ってる」みたいな連絡をもらって、「え?」と思ったら、実は前の会社の上司だったんですよ。「お前、何やってんだ」「いや、今映画のプロデューサーみたいなことやってます」って言ったら、「じゃあ、ご祝儀で」って、『南極料理人』で極地研究所ってのがあって、そこでさかなクンが直撃レポートするみたいな番組をやってくれて。

しばらくしたら連絡が来て、「さかなクンが自伝を書いたから読んでみないか」って言われて読んで、次に「映画とかにならないかな」みたいな話になって、「いいっすね」とか言って(笑)。面白そうだな、とは思ったんですよ。で、これ具体的にって考えたときに、ふと、この人が良い、と(沖田監督を見る…)

いつぐらいでしたっけ?

沖田修一監督(以下、沖田):だいぶ前ですよ。少なくとも5,6年前ですよね。

西ヶ谷:『さかなのこ』は、やるとしたら真っ先に沖田作品として観たいと思って。ただ、こういうストーリーになるとは全然予想してなかったです。

山上:監督としてはそのお話があって、即答だったんですか?

沖田:さかなクンが好きだったっていうか…さかなクン嫌いな人はあんま見ないっていうか。なんでさかなクンがみんなに好かれているのか…さかなクンを知る、みたいなのおもしろいなって思って。だから真っ先に手を挙げて「やりたいです」って、勝手にプロット書いて送ったりしてたんですけど。他の人にやられたくないな、ってみたいな気持ちもあったのかも。

西ヶ谷:インタビューでそれ読んで、すごく嬉しかったです(笑)

沖田:ああ、そうですか。

山上:キャスティングにはエピソードがありますか?今回特にのんさんの起用や、さかなクンご本人が登場したところも話題になっていると思うのですが、最初から決まっていたかのように凄くハマっている感じがします。

西ヶ谷:ストーリー作っていくときに、途中から「さかなクンの役を誰ができるんだろう?」みたいな話になって、当然、日本のその年齢の男優さんをいくつか挙げてたんだけど、突然、「のんさんがいいと思う」って、プロデューサーの西宮さんが言ってきて、「え?それって、面白くない??」って、「すぐにちょっと沖田に連絡して」って…

沖田:もう憶えてないんですけど、「面白いね」って、なんかわあっと広がったんですよね。のんさんでやろうって。

西ヶ谷:前田君(前田司郎:脚本)にも聞いてみたら「それ、いいじゃないですか」って…
これ誰も反対しないな、みたいな話になって…誰かが反対したら立ち止まろうって気持ちはあったんですけど。

1回、さすがに大胆すぎるよねと思って他の男優を考えてみたんですけど、みんなが、のんさんでやるっていうことのアイディアから離れられなくなっちゃって…それは観たいってなっていった感じがありました。

ギョギョおじさんっていう役も台本の設定上にあったんですけど。

沖田:それはアテ書きみたいでしたからね。

西ヶ谷:何が何でもさかなクンにやってもらいたいって、説得に行ったんで結果的にこういう形になってますけど。やっぱり台本の設定が先にある感じですね。

笑顔の沖田監督と西ヶ谷プロデューサー

過度な説明をしない

山上:映画を作っていく中で、うちの視点になってしまうんですけども、聴覚障害の人たちは基本、画で観ていく。視覚障害の方は映像を見るわけではなくて、音と共に音声ガイドを聴きながら観るってことになるんですけれども、やっぱり映画って、画と音の2つで成り立っているところがあると思うんですけれども、よろしければ、映像と音っていう切り口で何かそれぞれもしこだわってらっしゃるところとかがあれば教えていただきたいな、と思うんですけれども。

沖田:そうですね。いや…どうだろう?結構僕は音に引っ張られてるところがあって。俳優さんの発するセリフとか言葉とか、なんかその気持ちいいかどうかみたいなのは何かある。
最後にダビングっていう音の作業をするんですけど、音の作業で感じが変わることが僕は結構あって。だから、比較的、上映でいろんな映画館でやるとき、音の出方が違ったりすると、なんかすごく気にするようになったりとか。

西ヶ谷:沖田監督もそうなんですけど、自分が一緒にやってる監督たちは過度な説明をしないんですね。バリアフリー制作を監修しているときに気になったのが、ポンと時間が飛んで、家族4人暮らしがいきなり2人暮らしになってることに気付きますかね、とか。しかも愉快な音楽がかかってるから余計に気づかない場合もあるのかな、って思ってて。
でもやっぱり、ベタに説明するのは嫌いな監督たちだし、そこは察知してほしいっていうもとで作ってます。あと、沖田監督は悲しい画面に悲しい音楽をかけてシーンの補強をするとかっていうのは、基本的にしないです。『南極料理人』の時から、ここもうちょっと泣かせれば儲かるぞみたいな話をするんですけど、断固拒否だから。そういうのはわかってますし。

東京テアトル制作/プロデュース作品 『南極料理人』別のウインドウを開く

南極料理人 場面写真
©︎ 2009「南極料理人」製作委員会

『横道世之介』もそうですし『南極料理人』も、多分これもそうなんですけど、楽しいんだけどちょっと切なくなるみたいな微妙なラインがあります。音楽は愉快なんだけど泣けてくるみたいなことがあったりするから。

沖田監督は、やっぱりそういうふうにソリッドにお芝居を作って行くし、音楽も基本的にはひょっとしたら反作用になるような音楽が入ってきたりします。あとストーリーの省略ですよね。この辺がすごく映画っぽいっちゃ映画っぽいんですけど、うまく伝わるかどうかっていうのはすごくいつも気にはします。

西ヶ谷プロデューサーの画像

バリアフリー版の制作は映画監督の勉強になる?

山上:バリアフリー版制作についてですが、改めて、西ヶ谷プロデューサーには、ほぼ立ち会っていただいてるんですけども、いかがですか。

西ヶ谷:(沖田監督に)機会があれば、立ち会った方がいいと思います。面白い。

沖田:ああ、そうなんですか。へえ~

西ヶ谷:最初は、「え?チェック行くの?そんな時間ないんだけど」と思っていて、多分『素敵なダイナマイトスキャンダル』が最初だったんですけど。

東京テアトル制作/プロデュース作品 『素敵なダイナマイトスキャンダル』別のウインドウを開く

素敵なダイナマイトスキャンダル 場面写真
©︎ 2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

助成金がでるのでやりましょう、みたいなことになったと思うんですけど…
行ったときに…発見が多いんですよ。

物凄く演出意図がわかってないと制作できないし、(字幕や音声ガイドの初稿で)質問がすごく来るんです。ここまで…映画のライターさんからもこんなの細かいの来ないよ、みたいな感じのがあって。それに答えるのが面白くなるんですよ、すごく。

で、実際に(モニター会に)行くと、モニターの方たちがいるんですよ。質疑応答するんですけど、これがすごく面白い。ユーザーの方に伝わってるか伝わってないかって、一番気になるじゃん。だってこんなに省略してるわけだから。
「伝わってるんだ!」とかね。すごい発見があって、多分演出にかえってくるんじゃないかって気がするくらい発見があるんですよ。

沖田:逆に、こんな演出いらなかったんじゃないかとか見えてきそうですね…

西ヶ谷:めちゃくちゃ、演出意図を伝えることになるんですよ。本直しとか編集も一緒にやってるし、ダビングの時の監督の指示も聞いてるからギリギリ答えられたけど、(沖田監督に)ちょいちょい連絡して「あれってさあ」みたいなこと聞いたりしたじゃん?だから、「これ監督の勉強に良いんじゃないかな?」って気がすごくしたんです。

沖田:そういえば、 前作の映画について感想を書いてくれた漫画家さんが居て、その映画に出た人が「こんなこと書いてくれてます」、って僕に教えてくれて、その漫画を、ギャグ漫画なんですけど買って。読者カードが付いてたので、「カード書いて送ろう!」って書いて送ったりして。そしたら「“さかなのこ”楽しみです」ってTwitterとかに書いてくれて。その人はTwitterで「僕は耳が聞こえにくいんだけど、映画観たくて、聞こえないが為に観れない映画がこんなにあるんだ!」って。

山上:藤岡拓太郎さんですね。2021年3月にDVDに字幕が付いていない作品リストをつけた漫画を投稿されて話題になりました。

沖田:そう、そこに、『横道世之介』も書いてあって。

沖田監督の画像

未来に向かうラストシーン

山上:今回、映画を観させていただいて、冒頭の手書きの文字「男か女かは、どっちでもいい」っていうところから始まり、個人と社会とのあり方・関わり方みたいなところに、一つ、大きく背中を押してもらえるような作品だなというふうに思ったんですけれども。映画館に来る観客の中に、本当にいろんな人たちが今後出て来るんじゃないかな、と。そのあたりはいかがでしょうか。

西ヶ谷:沖田監督が、「冒頭の小学生のランドセルが赤と黒だけっていうのが、ラストシーンではカラフルなランドセルなんです」みたいなこと言ったときに、わーって思って、すごくその、今から未来に向けての、そういうことをやりたいんだなって。台本に全く書いてないんですよ、書いてないんだけど。のんさんが主役ってのをひっくるめて、いろんな「こうでなきゃ」「こうだよね」っていうのをぶち壊してくれるような感じの走りに見えるんですよ、ラストの走りは。すごく嬉しくなってくるのは、そういう勢いがあるよなって。

のんさんが体現してて、それを子供たちが追っかけてく、っていう。それは、冒頭のシーンと全く違う…だから、“未来”に向かってる感じがあって、いろんな想いが集約されるラストシーンで、僕は好きですね。どっかで今の時代を、吸収してるのかもしれないです。

沖田:さかなクンに、凄いシンプルな質問をぶつけて、「なんで魚好きなんですか?」と聞いたことがあったときに、やっぱすごい多種多様…ミー坊が台詞で言ったんですけど、「1匹1匹顔が違う」っていうようなことを言って、僕らは鯖を見たらサバでしかないんだけど、多分さかなクンが言ってるのは「このサバちゃんは可愛くて、このサバちゃんはどうだ」みたいなとこまで、多分見るんだと思うんですよ。なんか、そういう感覚ってあんま無いなと思って。なんかその、開かれてる…さかなクンのそういう意識みたいなところ…そういう考え方の映画でもあるから、そこまで強いあれは無かったんだけど、図らずもそういう映画になってって、さかなクンが現代のヒーローみたいに見えてきたりもして、なんか不思議だなーと思って。

西ヶ谷:さかなクンの“普通”っていうのが、やっぱりすごい、全く僕らの想像外の、なんか固定概念が全くないから、「あ、そうなんだ」みたいなことはすごいある。

さかなのこ場面写真

“えいがのこ”でありたい

山上:最後に、“ミー坊にとってのさかな”、っていうのがお二人にとってはやっぱり、“映画”なのでしょうか。

西ヶ谷:僕はもう、映画以外に何も無いので。

沖田:僕も、ためらわずに、さかなクンを見ていて“えいがのこ”と言おうと思ってますけど。言いづらいんですけど、“えいがのこ”でありたいなと思います。

山上:今後、考えられている、“こんなもの撮りたいな”とか“こんな仕事したいな”みたいなこと、教えてください。

西ヶ谷:「儲かる映画作ります」と言えればいいのですが、よく考えたらそんなこと考えたことなかったですね。僕はもうほんとに「この監督と、観たいもの」っていうものでしかやってない。それがなんとなく、ちょっとでも黒字になればいいかな、くらいなことでしか考えてないので。そういうことでしかないです。だから僕は、やっぱり監督と一緒に何か「こういうのが作りたいよね」っていうのが楽しい、だけです。

沖田:映画は、一個に関わると長い付き合いになるんで、迂闊にいっぱい何でもかんでもやれないな、といつも思うんですけど。絶対に何かこれは長く付き合えるぞっていうか、自分が最後まできっと楽しめるだろうな、っていうか、なんかそういう勘みたいなのが、ちゃんと納得して、自分が楽しいものにずっと付き合っていきたいなと。素直に、あんま嘘つかないでやりたいなって思います。

西ヶ谷:この映画にぴったりなメッセージ。(笑)

沖田:いえいえいえいえ。

沖田監督と西ヶ谷プロデューサーと代表山上の3ショット

プロフィール

監督・脚本|沖田修一

Shuichi Okita
おきた・しゅういち /1977年、埼玉県生まれ。
2001年、日本大学芸術学部映画学科卒業。数本の短編映画の自主制作を経て、2002年、短編『鍋と友達』が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。2006年、初の長編となる『このすばらしきせかい』を発表。2009年、『南極料理人』が全国で劇場公開されヒット、国内外で高い評価を受ける。2012年公開の『キツツキと雨』が第24回東京国際映画祭にて審査員特別賞を受賞し、第8回ドバイ国際映画祭で日本映画初の3冠受賞を達成。2013年『横道世之介』で56回ブルーリボン賞最優秀作品賞などを受賞。近作の作品に映画『滝を見にいく』(14)、『モヒカン故郷に帰る』(16)、『モリのいる場所』(18)、『おらおらでひとりいぐも』(20)、『子供はわかってあげない』(21)などがある。

プロデューサー|西ヶ谷寿一

Toshikazu Nishigaya
にしがや・としかず /1970年、静岡県生まれ。2003年、東京テアトルに入社。主なプロデュース作品は『人のセックスを笑うな』(08)、『南極料理人』(09)、『横道世之介』(13)、『私の男』(14)、『ディストラクション・ベイビーズ』(16)、『ふきげんな過去』(16)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18)、『旅のおわり世界のはじまり』(19)、『おらおらでひとりいぐも』(20)、『あのこは貴族』(21)など。

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