【鑑賞サポートについて考える】
みえない・みえにくい観客への鑑賞サポートとは? 後編
UDCastではきこえない・きこえにくい方を対象に、台本貸出についてのアンケート調査を実施し、必要な鑑賞サポートについての生の声を知ることができました。
そこで今回は、鑑賞サポートを利用されたことのあるみえない・みえにくい方を対象に、鑑賞サポートについてのアンケート調査を実施し、その結果をまとめました。
前編では、みえない・みえにくい観客にとって台本貸出や舞台説明がどのような役割を持つのかや、事前資料提供の方法・期間の希望について実際のデータをまとめました。そちらも併せてご覧ください。
後編では、実際に鑑賞サポートを受けて、良かった点、改善してほしい点やアイデアについてまとめています。
この調査により、より喜ばれる鑑賞サポートが増えるきっかけとなれば幸いです。
調査概要
調査期間:2024年12月から2025年1月
調査方法:Google Formおよびメールを利用したアンケート調査
回答者数:14名 (鑑賞サポートの経験がある方)
回答者のみえ方の状況:
13人が回答。全盲 7名、弱視 3名、その他自由記述「光覚」、「光を感じる(明るい暗いがわかる)程度」、「ほとんど見えていない」
回答者のみえなくなった時期:
8人が回答。生まれつき 2名、「幼少期~20歳頃」 1名、「20歳以降」 5名
用語解説:
「鑑賞サポート」とは
舞台や映画作品など文化芸術のアクセシビリティを担保するサービスを「鑑賞サポート」と呼ぶ。「鑑賞サポート」には、字幕、手話通訳、音声ガイド、舞台説明、台本貸出などがある。
「台本貸出」とは
きこえない・きこえにくい方や、みえない・みえにくい方に対して、作品の内容を理解するため、音声情報や視覚情報のサポートとして、作品の台本を貸し出すこと。紙の台本だけではなく、「台本タブレット」や音声読み上げソフトで読み上げることができる台本データの貸出など、多岐にわたる方法がある。
「舞台説明」とは
観劇前に登場人物紹介や衣装、舞台装置や美術などの情報をお伝えすること。視覚情報を事前に知ることによって、イメージを膨らませてから鑑賞される方が多い。テキストの場合、作・演出・キャスト・あらすじなどの作品情報に加え、客席の様子や上演時間を掲載している。また、上演前の舞台や動画においてその役を演じる俳優が自らの声で登場人物の紹介や衣装の説明をしたり、リアルな劇場空間の説明をする場合もある。さらに、舞台装置に触ることのできるような取り組みもある。
【鑑賞前】誘導サポート
みえない・みえにくい観客にとって、会場へのアクセスが難点です。会場内では劇場スタッフに案内をお願いすることがありますが、会場の最寄り駅からの誘導サポートがあったおかげで安心して一人で観に行くことができたという事例がありました。
- 最寄り駅からの誘導サポートがあって、安心して1人で出かけることができた。(60代女性、埼玉県、全盲)
- 駅から誘導してくださったので一人でいけたこと、スタッフの方がいろいろお気遣いくださり、パンフレットの内容やグッズの説明もしてくださったので、楽しく鑑賞できました。(50代女性、大阪府、全盲)
【鑑賞前】舞台説明・台本貸出
鑑賞前の舞台説明について喜ぶ声が寄せられました。公演中、衣装がどのように見えるかが詳しく説明されたことで、「目に焼き付くよう」な印象を持ったという方もいました。その役を演じる俳優が登場人物を紹介する映像のおかげで、役と声を結び付けて覚えて鑑賞することができたという声もありました。
- ミュージカルで、踊っているときの衣装の様子が説明されたこと。踊っているときに和服の鮮やかな襦袢が見える様子が説明された。目に焼き付くようで印象だった。(60代女性、大阪府、全盲)
- 事前に舞台に上がらせてもらい、舞台装置を確認させてもらえたのはよかったです。また、衣装を触らせてもらえたのもよかったです。(50代女性、東京都、弱視)
- 事前VTRを拝聴することで、 当日のキャストの配役、お声が記憶に残る為、当日スムーズに鑑賞に入れること。(60代男性、兵庫県、光覚)
一方、台本貸出の形式についての要望がありました。WordやPDFの形式での台本や長い文書では読みづらいため、テキスト形式で分割されたものがよいという意見が寄せられました。これはみえない・みえにくい方が貸し出された台本を読む際には音声読み上げを利用するためです。ソフトの仕様上、改行がされていると読み上げがうまく行われないこともあり、その特性を理解したデータづくりをしてほしいという意見が、詳しい例とともに寄せられていました。
- 登場人物の紹介を演じる役者さん本人がしてくださった舞台説明がとても良かったです。声も合わせて覚えられて、イメージがスムーズに付きました。台本がword文書やPDFでは読みづらいです。単純なテキストでいただけると助かります。できれば台本は3分割くらいでいただけると読みやすいです。長い文書は場所を探すのに時間がかかってしまいます。(50代女性、神奈川県、全盲)
- (舞台説明のテキストについて) 内容に不満はありませんでした。まさに必要にして十分。よく練られた説明だと思いました。 ですが、残念なことに(PDFで)各行末に改行マークが入っていて、熟語が二行にまたがっている場合、PCの音声読み上げソフトが一つの熟語として認識せず、妙な読み方になってしまうケースが複数見受けられました。
例を拾うと、
ホテルの【支
配人】とボーイ長
「しはいにん」ではなく「ささえはいにん」と読み上げます。
座席は【ソファ
ータイプ】で足元もゆったり。
「ソファータイプ」ではなく「そファバータイプ」と読み上げます。長音を表す「ー」は前に文字が無ければ「バー」と読み上げられるのです。
ヒラヒラ揺れる【優
雅】なデザインです。
「ゆうが」ではなく「ゆうみやび」と読み上げます。
【俳優
達】は主に一段目と
「はいゆうたち」ではなく「はいゆうたつ」と読み上げます。
見た目では何の問題も無いはずなのですが、このように、熟語が改行マークによって分割されてしまい、正しく読み上げられなくなってしまいます。「え?」 と思った瞬間に正しい読みを推測できる場合もありますが、音声を停止してカーソルを一文字ずつ動かして確認しなければならないこともしばしばです。視覚障害者が音声読み上げソフトを利用して読むことを想定して書かれる文章は、読み上げソフトの癖というか特性を理解して書いていただければありがたく思います。(70代男性、神奈川県、光を感じる(明るい暗いがわかる)程度)
【鑑賞後】事業者と話す時間
鑑賞後に関する意見として、鑑賞中に分からなかった箇所の説明をしてもらったり鑑賞した感想や意見・希望を伝えたりするなど、事業者と話す時間があるとよいことが読み取れます。
- 鑑賞後に分かりにくかったシーンについて、スタッフの方が説明してくれた。(50代女性、東京都、全盲)
- 何らかの形で事業者への感想、フィードバックする機会があるといいと感じた。(50代男性、愛知県、弱視)
- 舞台の鑑賞サポートで終演後にいつもお伝えしているのはサポートを提供する公演がもっと増えることを希望しているということです。気持ちは伝わっているのかなと思います。(40代男性、兵庫県、全盲)
【こんなサポートがあれば観に行きたい!】
実際に鑑賞サポートで体験したことだけではなく、「もっとこんなサポートがあれば観に行きたい!というアイデア」についてもお聞きしました。みえない・みえにくい方はどんな内容のサポートを希望されているのでしょうか。
これまでにも触れた内容としては、会場の最寄駅から劇場までの誘導が挙げられていました。また、劇場内でもトイレや座席までの案内があると安心して観劇できるとのことでした。会場や劇場内までのアクセスのしやすさが、公演へのアクセスのしやすさと大きく関連していることが読み取れます。
- 最寄駅から劇場の誘導、劇場内の誘導、トイレへの案内などがあるととても助かります。(50代女性、神奈川県、全盲)
- 最寄駅からの誘導サポートがあると、観に行きやすい。(50代女性、東京都、全盲)
- 当事者一人でも安心して鑑賞できる対応があるといい。例えば、一人で来場した時、席までのガイドなど。(50代男性、愛知県、弱視)
- どうしようもないことですが、会場が遠方になるとどうしても二の足を踏んでしまいます。(60代男性、兵庫県、光覚)
また、舞台装置や衣装、小道具に触る時間があるとよいというアイデアも寄せられました。テキストの説明に加え、触れる時間があると、舞台美術を自ら感じることができ、分かりやすいとのことでした。
- 舞台衣装や小道具を触らせてほしいです。(50代女性、大阪府、全盲)
- 舞台ではステージの様子を簡単な模型で触れるようにされている公演がありました。文字や言葉の説明よりも分かりやすいので、このような工夫が一般的になるとうれしいです。(40代男性、兵庫県、全盲)
また、これまでの質問では見られなかった意見として、観劇の付き添いについての意見がありました。盲導犬を連れて一人で観劇に行った際に犬が苦手な方が近くにいたという体験、友人やガイドヘルパーと一緒に観劇に行きたいが気を遣ってしまうという心情から、付き添い1名が無料になったり、演劇が好きな人を付き添いとして気軽に誘えたりするようなサービスを希望する方がいました。
- 付き添い1名が無料になるというサービスはとても助かります。私は盲導犬を同伴するので、必ず友人を誘います。人間が2人いれば、足元に犬を横向きに伏せさせても何とか収まりますが、私一人だと犬の頭やお尻が隣席の人に触れてしまいます。犬好きの人ならかえって喜んでくれるかもしれませんが(笑)、 犬が苦手な人だったりすると…。 私は都内の某劇場で他の客から「こんなところに犬を連れて来るんですか!」 と大声で言われた経験があります。劇場スタッフが「盲導犬なので、ご理解を」 と言うと、「それはわかりますけど、私は犬が苦手なんです!」と彼。 他の客が席を替わってくれて事なきを得ましたが、その人には気の毒な事をしたと今でも思っています。身体障害者補助犬法があろうがなかろうが、世の中には犬が苦手な人、犬に恐怖を覚える人が確かに存在します。 最近はチケットがどんどん高価になって、気軽に友人を誘えなくなってきました。せっかく舞台説明や音声ガイドがあるのに、1万円を超えたりすると…。 営業面から考えれば、「付き添い1名は無料」というサービスを実現するのは かなり難しいことだと理解はできるのですが。(70代男性、神奈川県、光を感じる(明るい暗いがわかる)程度)
- 視覚障碍者の場合核家族化や高齢化により、見える時・若い時のように友人知人と誘い合わせて観劇に出かける事は現実問題として難しい人が多い。 したがって合理的に頼めるガイドヘルパーに同行してもらう事が多くなっている。この際にも問題はあり、演劇や芸能に興味のあるガイドさんが見つかるわけでもないので気を使ってしまう。また時間数にも限りがあるので必要性の優先順位でなかなか観に行けないという声も聞く。そんな時いつも演劇好きの方たちのなかで都合が合えば一緒に行ってもいいと思う人に登録してもらう観劇サポートグループのようなのができないかなと考えたりする。もちろんそこにはいくつかのルールが必要になってくると思う。(属性回答なし)
そのほかにも、鑑賞サポートについての早めの広報がされること、都合のいい日にちを選べること、できるだけ前のほうの席を確保してほしいことなどの要望が寄せられました。
まとめ
- 会場から駅までの案内がない、付き添いを探すという点でバリアを感じている方がいる。安心して鑑賞するためにも、会場へのアクセス時点での対応があることが望ましい。
- 事前に出演者の声を聞いたり舞台美術を触ったりする機会があるのが望ましい。
- 台本や事前説明資料のテキスト貸出の際は、シンプルなテキストベースのデータ作成が望ましい。
- 鑑賞後は、事業者と話す時間が設けられているのが望ましい。
今回寄せていただいた様々な事例が、多様なお客様が劇場にご来場されるきっかけとなれば幸いです。
UDCastの鑑賞サポート相談窓口では、観客・事業者からの相談を受け付けています。お気軽にご相談ください。