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【鑑賞サポートについて考える】
きこえない・きこえにくい観客への「台本貸出」とは? 前編

UDCastの鑑賞サポート相談窓口には、日々、鑑賞サポートに関するさまざまな声が届いています。
近年、比較的取り組みやすい鑑賞サポートとして、きこえない・きこえにくい観客への台本貸出の事例が増えています。そのなかで「もっとこうだったらいいのに」「こういうことがあって困った」という声がありました。そこでUDCastでは、きこえない・きこえにくい方を対象に、台本貸出についてのアンケート調査を実施いたしました。
この調査により、より喜ばれる鑑賞サポートが増えるきっかけとなれば幸いです。

調査概要

調査期間:2024年11月21日から12月9日
調査方法:Google Formを利用したアンケート調査
回答数:76件
回答者のきこえの状況:
ろう者 51.4%、難聴者 25.7%、中途失聴者 14.9%、その他自由記述「デフ(聞こえにくい、聞こえない。上記の3件を経験しているので)」、「聴覚障がい者」、「両耳完全失聴後の片耳人工内耳利用」、「部分難聴(高音)」、「突発性難聴」
回答者のきこえなくなった時期:
生まれつき 38.7%、幼少期~20歳頃 37.3%、20歳以降 18.7%、その他自由記述「2年前」、「45歳」、「聞こえにくくなったのは幼少期、それから聴力低下。」、「20代くらいから30代後半の40前、障がい者認定を受けたのは40半ばです。」

用語解説:
「鑑賞サポート」とは
舞台や映画作品など文化芸術のアクセシビリティを担保するサービスを「鑑賞サポート」と呼ぶ。「鑑賞サポート」には、字幕、手話通訳、音声ガイド、舞台説明、台本貸出などがある。
「台本貸出」とは
きこえない・きこえにくい方や、みえない・みえにくい方に対して、作品の内容を理解するため、音声情報や視覚情報のサポートとして、作品の台本を貸し出すこと。紙の台本だけではなく、台本データの貸出、客席に持ち込むことができる「台本タブレット」の貸出など、多岐にわたる方法がある。

 


【①貸出期間】きこえない・きこえにくい観客への「台本貸出」

回答者76人のうち、台本貸出を利用した経験が「ある」と答えた方は56人(73.7%)、「ない」と答えた方は20人(26.3%)でした。

さらに「2時間の演劇公演の台本を事前に読むために、どのくらいの期間の台本貸出を希望しますか。」と質問したところ、「1週間前後」の台本貸出を希望される方が一番多く、約40%でした。
ただ、これを貸出経験に照らし合わせると、実際に台本貸出を経験した方ほど、読んで内容を理解するのに想定以上の時間がかかると回答しています。

台本貸出利用経験「ない」方の台本貸出希望期間 円グラフ 2時間以内30%、4時間以内25%、1週間前後35%、3日前後5%、1日以内5% 数値以上 台本貸出利用経験「ある」方の台本貸出希望期間 円グラフ 2時間以内8.9%、4時間以内10.7%、1週間前後41.1%、3日前後30.4%、1日以内1.8% その他7.1% 数値以上

経験がない方は「~2時間以内」、「~4時間以内」と答えた方も半数以上いた一方で、
経験がある方は「1週間前後」「3日前後」という回答が多く、その他の回答で「もっとも時間がかかった作品は3日」「1か月くらい」と、かなり時間を必要としていることが分かりました。

【②提供方法】きこえない・きこえにくい観客への「台本貸出」

紙の台本だと暗い客席で読むことができないため、近年、「台本タブレット」という提供方法を選択する公演が増えています。

用語解説:
「台本タブレット」とは
タブレット端末に台本データを入れて端末上で台本を見られるようにしたもの。ページめくり等は自分で操作する。暗転時に周囲に明かり漏れすることがないようフィルムを貼るなどの配慮をして、鑑賞しながら台本による情報を得ることができるように工夫をして貸し出している。

台本タブレットを持つ手元の様子

この台本タブレットは、どのように活用されているのでしょうか。

「上演中に会場内で台本を閲覧できる「台本タブレット」を使用したことがありますか」と質問したところ、使用したことが「ある」と答えた方は33人(43.4%)、「ない」と答えた方は43人(56.6%)。となりました。まだまだ実際に使用した方は多くないようです。

使用経験が「ある」と答えた方へ、「「台本タブレット」は鑑賞前後、鑑賞中でどのように利用する場合が多いですか。」と聞きました。(有効回答数29件)

主に「鑑賞中」にしっかり読む方が17人。ネタバレになってしまうので事前には読みたくないという回答が多くありました。

主に「鑑賞前」にじっくり読む方が12人。事前に台本を読むことで全体の内容を把握し、鑑賞中は舞台に集中したいという意見がありました。また、幕間や終演後に振り返りをするという方もいました。

貸出のタイミングが開演直前の場合、鑑賞前にじっくり読みたいにも関わらず、やむをえず鑑賞中に台本を見なければいけないといった回答も寄せられました。「鑑賞中」に読むことが特徴の「台本タブレット」でも、事前の貸出を希望する方もいるとわかりました。

【③内容】きこえない・きこえにくい観客への「台本貸出」

そもそも、台本貸出は、きこえない・きこえにくい状況にある観客が【台詞】や【歌詞】のような音声情報を受け取ることが目的です。
このほかに、台本タブレットで鑑賞する際に、必要な内容があるかどうかを聞いたところ、個人差があるものの、主に下記の項目に希望が集まりました。

  • 効果音やBGMなどの【音楽情報の説明
    (必要…68.4%、どちらでもよい…23.7%、不必要…7.9%)
    自由記述では「使われている楽器の説明があるとよい」という意見もありました。
  • 登場人物紹介
    (必要…63.2%、どちらでもよい…26.3%、不必要…10.5%)
    自由記述では、役者の顔写真、セリフの色分け、役者の位置など話者を識別するための情報に多くの希望が寄せられました。
  • セリフの読み方に合わせた強調(大きい声のセリフは太字など)
    (必要…60.5%、どちらでもよい…23.7%、不必要…15.8%)
  • 場面の説明(シーンごとの世界観や時間などの説明)
    (必要…56.6%、どちらでもよい…32.9%、不必要…10.5%)
    自由記述では、ある舞台を見た際にテンポが速く今どの場面なのか把握するための情報がないため、見て分かる場面説明の記載が欲しいという意見が寄せられました。

一方で下記を希望した方はどちらかというと少なく、台本からではなく、舞台上から受け取りたいという気持ちが感じられました。

  • 登場人物の舞台上での動きやしぐさ
    (必要…34.2%、どちらでもよい…34.2%、不必要…31.6%)
  • 登場人物の心情
    (必要…30.3%、どちらでもよい…32.9%、不必要…36.6%)

また、ト書きに関しては「すぐ読めるように短文で簡潔に書いてほしい」を希望したのは51人(68.9%)、「長文でもよいので詳細に書いてほしい」を希望したのは16人(21.6%)、その他自由記述回答が7人でした。自由記述には、「なくても困らない」、「ないよりはあった方が助かります」、「内容によって工夫してもいいかな、と思う」などといった回答が寄せられました。
台本タブレットの場合、どちらかというとト書きは簡潔であることが望ましい。という傾向があり、わかりやすく簡潔な文体になっているか、当事者による監修を希望する意見もありました。

鑑賞サポートとして使用するという観点からは、稽古用の台本ではなく、以上のような情報を追記して再構成した鑑賞サポート用の台本を用意するのが理想的という結果になりました。

字幕と台本の違いは?

一方で、きこえない・きこえにくい観客への鑑賞サポートとして「字幕」があります。
「字幕」は台本貸出で必要な内容としてあげられた、台詞】【歌詞音楽情報の説明】【話者を識別するための情報※話者名など】をリアルタイムの進行に合わせて表示するもので、今どの場面なのか把握する】ことができると言えます。

そこで、字幕がある場合と、台本貸出のみの場合と、鑑賞体験として比較して感じたことがあれば教えてください。と聞いてみました。

  • 「鑑賞後の感動の大きさが違う。台本の場合は舞台上の役者の口の動きを確認しながらでないと「今、どの部分のセリフなのか」がわからないため、口形を読むことに注力してしまいお芝居そのものを楽しめない。
    字幕の場合は自動で変わってくれるので、役者の表情や、舞台での動き(セリフを発していない人の動きや表情など)まで楽しめる余裕が持てる。そのため終演後もその余韻に浸ることができる。」(40代女性、東京都、ろう)
  • 「台本よりも字幕があった方が、それぞれの場面での役者さんへの感情移入も含めて、ハラハラ・ドキドキと楽しむことができると思う。「台本貸出のみ」ということであるならば、事前に読みこんでよく理解した上で当日を迎えたいが、それだと内容は理解できるものの、感情移入までできるかどうかは難しい。(話がわかってしまっているので・・・)」(60代男性、神奈川、中途失聴)

字幕では、「今観劇をしているのだ」という楽しみをより深く感じることができる。感情移入できる。という声が多く寄せられました。

さらに、具体的に観劇中の作業の違いを伝えていただいた方もいらっしゃいました。少数派ながら、提供方法などには多様な希望も寄せられました。

  • 「字幕がある場合…ステージに集中することができる。たまに字幕を見逃すことがあるが問題はない。疲れにくく、楽しめる。
    台本貸出のみの場合…上演前までの貸出であれば、上演中ほぼ把握は出来ない。上演中可能であれば、ステージは30%ぐらいしか見れないが、内容は把握できる。上演後の貸出は思い出しながら把握するという感じ。結構疲れやすい。」(40代女性、大阪府、ろう)
  • 「紙台本貸出しは開演までに出演者全員のセリフを覚えなければなりません。上演中は思い出しながら読唇などを頼りに内容を推測しながら見るのでヘトヘトになるし、覚えきれなかったセリフの部分は内容がよく分からずモヤモヤがストレスです。
    台本タブレットは上演中に見ながら舞台を観られるので覚えなくていいのは助かります。ただ、自分でページを進めないといけないので、大人数の展開が早い場面など役者さんがどこを話してるかわからなくなるとめくるのにまごつくことがあります。
    字幕が一番負担なく観られて助かります。できたら舞台上に字幕を出してほしい。漫画の吹き出しのように、役者さんの後ろの壁やセットとかに字幕が出たらすごく見やすいと思います。」(40代女性、千葉県、難聴)
  • 文字が舞台付近に見えると没入感が薄れて舞台を見ているというよりテレビを見ている感じになり、舞台を見るという楽しみが減る気がしました。舞台に字幕を出すのではなく、字幕眼鏡をもっと使いやすくしてほしいです。」(40代女性、中途失聴)
  • 字幕はどうしても字を追ってしまい、その間は舞台に出てる人達の表現表情を見ることが出来なくなるので、それなら事前に台本で台詞を出来るだけ覚えて舞台見たほうが自分にとっては楽しいかなと思います。」(40代女性、千葉県、難聴)

字幕があっても台本貸出は必要?

「字幕がある際も、台本貸出は利用したいですか。」という設問に「不必要」と答えた方は34人(44.7%)、「どちらでもよい」と答えた方は28人(36.8%)、「必要」と答えた方は14人(18.4%)でした。

不必要と答えた方

  • 字幕があるのであれば、事前情報はなるべく入れずにその場での感動を味わいたい。(40代女性、東京都、ろう)
  • きこえる人の場合、あらかじめ台本(シナリオ)を読むことはないので、同等の環境に位置したい。(50代女性、千葉県、難聴)

どちらでもよいと答えた方

  • 作品のセリフのボリューム等にもよる。(40代女性、千葉県、中途失聴)
  • 台本を前もって送って貰えたら読んで予習したいし、当日は字幕に頼りたい。(50代女性、栃木県、ろう)
  • 字幕と台本ほぼ同じ情報だと思うので、字幕タブレットが壊れて不調の時の予備として台本タブレットをお借りすることはありだと思います。でも字幕があるのであれば、字幕を見ていたいです。(30代女性、東京都、難聴)

必要と答えた方

  • 情報保障がいくつかあり、その中から自分が必要な情報を得る権利があっても良いと思います。(40代女性、福島県、ろう)
  • 登場人物が多い場合はある程度、ストーリーや登場人物を頭の中に事前に入れておかないとついていけなくなる(誰が誰だか分からなくなる)ため(40代男性、神奈川県、中途失聴)

【④周辺情報】きこえない・きこえにくい観客への「台本貸出」

最後に、台本貸出の際に台詞やト書きだけではなく、周辺の情報も欲しいという意見が多く寄せられたことをご紹介します。

  • 作品設定(人物相関図、人物説明、場面説明)
  • 公演画像(舞台装置や、場面写真※本番の衣装を着た俳優の見た目)
  • アドリブが入る予定の箇所

    これらは、鑑賞前に役立つだけでなく、鑑賞後に思い出すための要素として重要で、アドリブは、実際の内容を鑑賞後でも良いので知りたいという意見がありました。

また、下記のような情報にはHPや紙資料なども活用してほしいという意見がありました。

  • 鑑賞サポートの周知がされているか(アナウンスがあってもききとれないため)
  • 開演前・幕間のアナウンスの内容(休憩時間などの把握のため)
  • タブレットの使い方

鑑賞サポートを実施する際には、周辺の情報提供についてもあわせて考えることが非常に重要です。

まとめ

①貸出期間
「1週間前後」の台本貸出を希望される方が多い。実際に台本貸出を経験した方ほど、読んで内容を理解するのに想定以上の時間がかかると回答した。
②提供方法
紙の台本だけではなく、台本データの貸出、客席に持ち込むことができる「台本タブレット」の貸出など、多岐にわたる方法がある。「台本タブレット」があっても、字幕があっても、事前の台本貸出を希望する方がいる。
③内容
台詞・歌詞・簡潔なト書きはもちろん、【音情報の説明】・【話者を識別するための情報】・【今どの場面なのか把握するための情報】である場面説明を追記して再構成した鑑賞サポート用の台本を用意するのが理想的である。
④周辺情報
台本の内容に合わせて、相関図などの作品設定、公演の画像、アドリブが入る予定の箇所のような、周辺の情報が鑑賞の助けになる。さらに、鑑賞サポートの周知・アナウンス内容・タブレットの使い方なども情報として準備しておくと良い。

なお、後編では、アンケートの後半でお聞きした、実際に台本貸出のサポートを受けた皆さんのご感想や改善を希望したい点、好事例などをご紹介します。お楽しみに!

UDCastの鑑賞サポート相談窓口では、観客・事業者からの相談を受け付けています。お気軽にご相談ください。

 

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